Ritchie rich

とあるきっかけで数年放置していたアカウントを復活しました。なんか書いてみなさいよ、と絆…

Ritchie rich

とあるきっかけで数年放置していたアカウントを復活しました。なんか書いてみなさいよ、と絆されたのでなんか書いてみる事にしました。感想とか頂けると磨かれます。

マガジン

  • エスとエフの短編集

    拗らせたタイトルのショートショートを書いています。感想など頂けると磨かれます。

最近の記事

と、秋の空

「音大なんて無理だ!」父の厳しい声がリビングに響く。高校3年生のマリは、音楽大学への進学を夢見ていたが、父親はその夢に反対していた。「実力もないし、将来が不安定だ。もっと現実を見ろ!」と父は続けた。 「わかった、もういい!」とマリは叫び、家を飛び出した。まだ音楽を始めて数か月の彼女の心は純粋だった。涙が頬を伝う中、ただ前に進むことしか考えられなかった。 「おい、待ちなさい!」後を追う父も、必死で娘を追いかけた。 自分の意見が正しいと信じていたが、娘の情熱を思うと心が痛む。彼

    • 湯に行く

      ある曇り空の日、コーヒーにコーヒーゼリーを入れて食べるという小さな奇行から一日が始まった。 味が一緒で食感のみを楽しめるという、この時代に求められがちな「効率的な組み合わせ」や「味の多様性を楽しむ」とは真逆の体験であった。 この唯一無二の体験は、アーティスト気質を持つ私に新鮮な刺激を与えてくれた。 その満足感を心に留めつつ、私は健康管理アプリで設定された一日10,000歩の目標を達成するために、いつもと違う道を選んで散歩することにした。 普段歩かない新しい道を探索すること

      • ブレス・ユー

        ついに探検隊は目的地に到着した。 こやりの下に隠された洞窟を発見したのだ。 先ほどまで巨大な岩山の頂で舞を踊っていたことが、もはや遠い過去のように感じられる。我々は長く厳しい旅の末、このこやりの下の秘境に足を踏み入れたのである。 伝説では、この洞窟の奥深くには誰もが憧れる安住の地が存在すると言われている。彼らの繁栄のためには是が非でも到達する必要があった。 洞窟の入り口は、周囲の明るい大地とは対照的に、黒く長い草に覆われ、その神秘性を際立たせていた。目の前に広がるのは二

        • i MOM

          数十年にわたり、人類は地球外の隣人を求めて宇宙の深淵に耳を澄ませてきた。無数の星々が静かに輝く夜空の下、研究者たちは無線信号の海を耕し続けた。そして、ある日、突如として彼らの受信機が一度だけ、奇妙な電波信号を捉える。しかし、それ以来、同様の信号は二度と現れず、その一回きりの出来事は謎のまま封印された―― ある日、突如として地球中の電波望遠鏡が、繰り返される不思議な宇宙信号「QUE-65J」をキャッチした。 この信号は、一定のリズムで地球に届けられ、その規則正しいパターンから

        マガジン

        • エスとエフの短編集
          13本

        記事

          舐めプリン

          曇り空の下、凛はよく訪れる本屋へ向かう途中で、いつもとは違う風景に足を止めた。 かつてずっと空き店舗だった場所に、新しく出現した店の扉には金色の文字で「謎解きゲーム、異世界の扉。―あなたを異世界にご案内します―」と刻まれていた。これが流行の体験型脱出ゲームの一つだとすぐに理解した。 好奇心に駆られた凛は、店内に踏み込む決意を固めた。 店員の話によると、数々の謎を解き明かすことで、文字通りの「異世界へと通じる扉」が現れるという。 アトラクションと言う事で、異世界の描写には期待

          舐めプリン

          箱の中

          かつて、ある科学者が雷を捕まえた際、人々は疑問を投げかけた。「それが何の役に立つのか?」と。 しかし今、私たちは電気なしでは生活が考えられない。この逸話は、見えない発見が如何に大きな変革をもたらすかを示す一例に過ぎない。 我々がこの広大な宇宙について知っていることは、全体のほんの5%に過ぎない。残りの95%は、闇の中に隠された謎に包まれている。 これらの未知の領域から、一人の天才科学者が、ユニークなアプローチで電磁波や空間の歪みに全く反応しない、全く新しいタイプの物質が発見

          パブロフ

          昼下がりの休日、どこからともなく聞こえてくる金属音に誘われて、私はふと足を止めた。 眼前に広がるのは、かつて自分が汗を流した高校のグラウンド。後輩たちが夏の大会に向けて猛練習をしている。 その学校は、全国に兄弟校がある大海山大学附属高校、そして甲子園の常連として名を馳せる「大海山大学黒山高校」。 この学校を見ると、あの思い出がよみがえる―― 真夏の甲子園。初出場の「大海山大学藤木高校」の試合を実況するという重責が私に課されていた。 ”大海山”といえば”黒山”だが、同じ”大

          選択の仕方

          「あー、やっぱりダメだ」彼女はその日、何気ない日常の中で重要な変化に直面していた。10年間連れ添ったお気に入りの洗濯機が完全に壊れてしまったのだ。 「まさか昨日の占いが本当になるなんて…」彼女は、ストレスを感じると占いに頼る癖があった。昨日も、最近の予想外の出費が気になっていたため、気分転換になじみの占い師のところを訪れていた。 そこで「長年連れ添ったものと別れるかもしれない」と告げられ、少し落ち込んでいた。 「これでまた出費が…」と小さくため息をつきながら、これも運命と

          選択の仕方

          時間と機械

          ある日、プロジェクトの難題を解決するヒントを求めて、一人のビジネスマンが、気候の穏やかな海辺の漁村を訪れました。 彼は高級なスーツに身を包み、眼鏡をかけた鋭い目つきをして、手には特徴的な星形の痣がありました。 彼はその痣に関する少し変わったジンクスを持っていました。 その痣が気になる日には、いつも仕事で大きな成果を上げていたのです。 その日も朝からずっと手の痣が気になっていたので、何か大きなことが起こる予感がありました。 ふと辺りを見渡すと、村の桟橋でのんびりと釣りをしてい

          時間と機械

          燐寸

          眠みぃ。 只ひたすらに、眠みぃ。 眉間の奥が重たい。全く目を開く気が起きない。 頭がぼーっとする。耳に入る音が濁って聞こえる。 やっぱり眠みぃ。 「パチン」と空気を割く甲高い木の音が聞こえた。 彼の指す手がどのようなものであっても、私に影響はなかった。 今日は何かのタイトル戦だったはず。私がここに座ってから1時間になるだろうか。しかし、この対局で寝るわけにはいかない。 腕を組んだまま、少し首をもたげて考えるフリをする―― 3分ほど眠てしまっただろうか、意識が戻ると少

          灰色の幽霊

          その栗毛の競走馬は速かった。 デビュー戦を圧勝し、一時は調子を落としたものの、すぐに連戦連勝を重ね、目覚ましい活躍を見せた。 しかし、彼には一つの悩みがあった。 レース中にどこからともなく現れる葦毛馬の存在だ。 いつも見えない速さで彼を追い越し、一度も彼が追いつくことはなかった。 「どうすればアイツに勝てるのか」その栗毛の競走馬はいつも考えていた。 デビュー戦――彼は、一心不乱に驚異的なスピードで走り先頭でゴールした。周りなど見えていなかった。 次戦はデビュー戦を圧勝

          灰色の幽霊

          価値9

          「Tシャツにグローブ」「何色ともつかない奇妙な形のサングラス」 冬でもないのにグローブをしたり、ファッションに疎いとはいえ、私の中にそれはない。 何かを期待して街中に繰り出しては、することもなく周りの人間を観察してケチをつける。私の日常だ。 そういえば最近、この街で妙な噂をよく耳にする。 「それはこの世で一番エキサイティングな競技だ」 「いや、世界で一番のアクティビティーだ」 「どんなアトラクションよりも興奮する!」 「一生に一度体験しないと損だ」 何なら、大金を払い参

          虎と馬

          「あと10年で出来上がるさ」これが彼の20年前からの口癖だった。 その口癖を言わなくなった3年前から彼は確信に至った。 それは、究極の発明だった。 思考具現化マシン――ただ思うだけで何でも現実にすることができる装置。 多くの科学者が夢見たアイデアをついに実現させたのだ。 最初に彼が具現化したのは、完璧な花だった。 これまで存在しなかった、様々な花の要素を芸術的に織り交ぜたとても魅力的で完璧な花。 彼のラボに所狭しと並べられた鉢植えのコレクションにふさわしい堂々たる風格だ