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ミカコさん

私は、賢いできる女。寝苦しい夜には、寝不足にならないようにさっさと冷凍庫から保冷剤を取り出し、枕元に置いて眠るのが私の流儀だ。そんな夜、私は冷たい保冷剤の感触に包まれて心地よい眠りに落ちた。

しかし、翌朝目が覚めると、枕元に置かれていたのは体の熱で解凍され、ふにゃふにゃになったチクワだった。白いシーツにぽつんと置かれたチクワは、かすかに水滴が滲んでおり、もはや形を保つことができないほど柔らかくなっている。

「なんで冷蔵庫に入れたはずのチクワが保冷剤に…?」

頭の中で疑問が渦巻く。もしかして、昨晩の私の行動が錯乱していたのだろうか。冷蔵庫と冷凍庫を間違えるなんて、賢い私にはあり得ないミスだ。ふにゃふにゃのチクワを手にしながら、私はすぐに切り替えた。賢い女は小さなことに動揺しないのだ。

出勤して、オフィスのデスクに座ると、机の上には今日のタスクがびっしりと書かれたTo-Doリストが置かれている。できる女の私は、先を見越して在庫が切れそうな業務用の靴を発注することにした。デスクの上には資料やカタログが整然と並び、効率的に仕事を進めるのは私の得意技だ。私は業者に電話をかけ、メーカー名の「モンスター」の靴を発注する。

「お電話ありがとうございます。こちらはABC商事です。」

「お世話になっております。〇〇会社の△△です。モンスターの靴をお願いしたいのですが。」

「モンスターの靴ですか…?少々お待ちください……お客様、モンスターというメーカーは取り扱っておりませんが。」

私は深いため息をつき、業者の出来なさぶりに落胆した。もっと賢くやり取りできる人が担当だったらどんなに楽か。だが、相手が無能であっても、私は賢い女だ。冷静に対応するのが私のスタイル。

「もう一度確認してもらえますか?モンスターです。」

業者は機転を利かせたのか言葉を続けた。

「モンスター、ああ、ビッグサイズの靴ですね?」

「違います。メーカーのモンスターです!M-O-N-S-T-E-Rです!」

語気を強めつつも、資料を再度確認すると、そこには「MoonStar(ムーンスター)」と書かれていた。顔が赤くなるのを感じたが、私はすぐに電話をかけ直し、

「ムーンスターの靴をお願いします」

と訂正した。賢い女はミスを素早く修正するのだ。

業務を終え、帰りにスーパーに立ち寄った。世の中では、100円で1ポイントが付与されるシステムが普及しており、1ポイントは1円として使える。できる私は、こうした細かい得点を見逃さない。

店内を歩いていると、鮮やかなパッケージに目を引かれる。欲しかったハンドクリーム、ブランドは「ロクシタン」のシアバター配合タイプだ。価格は598円。白地に金色の文字が印象的で、香りも優雅なフローラルの香りが漂う。パッケージの角を指で撫でると、わずかにエンボス加工が施されているのが感じられる。しかし、私の頭の中で計算が始まる。598円では5ポイントしかつかない。私はここで賢く計算した。別の店で同じハンドクリームが600円で売られていることを思い出したのだ。600円なら6ポイントが付く。

「これが賢い選択ね。」

自分にそう言い聞かせながら、私は別の店に向かった。そこでも同じく「ロクシタン」のハンドクリームが並んでおり、600円で売られている。レジの前で財布を取り出し、小銭入れから600円ちょうどを取り出す。レジにて600円を支払い、6ポイントを得る。レジ袋に入ったハンドクリームの重さが、今日の満足感を象徴している。今日、仕事場で犯したミスを取り戻し、賢いできる女としての誇りを胸に、私は家路に着いた。

その夜、私は再び冷凍庫から保冷剤を取り出し、枕元に置いた。今回はちゃんと確認し、チクワではなく本物の保冷剤だった。冷たさが心地よく、今日の出来事を振り返りながら、私は深い眠りに落ちた。

1円得をした気分のままに…

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