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#83 フクロウ便専用の扉

「あぁ、おかえり。
氷の王国は楽しかったかい?」

Gregoryがテーブルの食器を片付けながら
私達に声をかけた。

「うん!ただいま!
私、食器洗うね。M.ちゃんはそこに座って。」

Oliviaはカウンターの中に入り
シンクの目の前にある席を指して言った。


シンクでは
洗剤の付いたスポンジとグラスやお皿が
そこに見えない誰かがいるかのように
宙で洗われていた。

スポンジで擦られた泡だらけの食器たちは
意思を持ったように
水の出ている蛇口に向かい、
最後にOliviaの目の前に来てふわふわと浮かんでいた。

Oliviaは、汚れが落ちているかチェックして
落ちていれば別のボックスへ、
汚れが残っていれば
またスポンジのところへ送っていた。

写真 2019-09-25 21 51 25

「ねぇねぇ、前に送ったフクロウのことだけど…
あのフクロウ、あなたの街で
目立ったりしなかった?大丈夫だったかしら?」

「そうだねー。
フクロウ自体を見ることが少ないから
あのサイズなら珍しいなぁくらいかな?」

「それくらいなら、よかった!
実は最初はもっと小さい子で送ったの。
これくらいの。」

Oliviaは両手で何かを
ふんわり包み込むような形を作った。

ちょうど洗い残りのチェックを求めてきた
グラスが少し弾かれて落ちそうになった。

「おっと…
あの子、長距離用の中で一番小さい子だったわ。」

「そうなんだ。
その子はどうなっちゃったの?」

「あの子、道に迷ったのもあるんだけど、
あなたの住むエリアの近くに行くと
カラスに襲われそうになったんだって。」

「あ~、確かにカラスは多いね…」

「そうなの。実際襲われたのかは知らないけど
怖がって帰ってきちゃったのよ。
ただ、カラスがいるってことは
鳥が休む環境はあるんだってわかったんだけど。」

汚れの残っていないグラスを
乾燥用ボックスに移動させるOliviaは
やはり少し荒く、ボックスに着地するときに
毎回ガチャンと音がした。


「次に選んだフクロウはあなたが受け取った子よ。
長距離対応であなたの世界のどの地域でも
馴染むような色のフクロウ。
あの子も一回目、すぐ近くまで行ったようなんだけど
似たような建物と景色が多すぎて
どの建物のどの窓だか分からなくなったみたい。」

「そうなの?まぁ、確かに
似たような景色が多いだろうね…」

「そう、それでもう一度教えて、
やっと届いたってわけ。」

「そっか。フクロウってすごく早いよね。
ここから私の家までって
かなり距離があるはずだけど
1週間ほどで届くなんて。」

「あぁ、違うわよ。
フクロウ達は届け先の近くの扉から
この世界を出ていくのよ。
あなたの国の大きさなら
1,2か所に扉があるんじゃないかしら。」

「それってフクロウ便専用の扉があるってこと?」

「そう、地域ごとに分けて、
1日3回郵便屋さんが鍵を開けて
フクロウを放つの。
次は迷わないと思うから、もう少し早いと思うわ。
この前送ったのも、明日くらいには届くかもね。」

「そうなんだ!楽しみ。」


テーブルとテラス席の片づけをしていたGregoryが
カウンターに戻ってきた。

「M.ちゃん、そろそろ出たほうがいいよ。
夜はやはり危ない連中も多い。
特に、君にとっては。

「そうですね、もうすっかり遅くなって…」

「Olivia、扉のそばまで見送ってあげなさい。」

Oliviaは
おもちゃを取り上げられた子供のような顔をした。

「はぁーい。」

私達は一緒に扉まで行って
またね、とハグをして別れた。



これがフクロウ便専用の扉のこと
聞いた時のおはなし。
続きはまた次回に。


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