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紳士な彼と神楽坂の夜

こんばんは。今日もお疲れさまでした。

その時、きっとデートらしいデートを最近していないとぼやいていたのです。飲み会に居合わせた大学生の男の子は、「それなら僕とデートにいきましょう」と誘ってくれました。

恋愛をせず、仕事に忙しくしていた20代の前半。それでも、たまに大勢で飲みたくて、mixiの「その日に行ける飲み会」によく参加していました。私は会社員で、彼は大学生でした。

ガレットが流行っていたので、私たちは神楽坂にランチに行きました。お店は彼がリザーブしてくれて、美味しく和やかに時間は過ぎていきました。私がお手洗いに席を離れた隙にお会計も済ませてくれていて、彼の振る舞いはずっと紳士でした。

猫のいるまんじゅうカフェで、猫をなでながら、日本茶とおまんじゅうを楽しみ、街の中をフラフラとしていたら、坂の通りに灯りが煌めきはじめました。

彼は、道路側を歩き、いつでもエスコートしてくれていました。

ものすごく盛り上がる訳でも、沈黙が気まずい訳でもなく、私たちは緩やかな知人の距離を越えられずに、そのデートを楽しんでいました。

私は彼の横で、これはきっと予行練習なのだと思っていました。彼が、手を握らずにはいられなくなった女性とするデートの予行、私は誰かにエスコートされる時の予行です。彼の予行練習は完璧でした。私が今までデートしたどんな男性より歳下なのに、彼のエスコートは大人で紳士でした。

彼は私が欲しいと言った和紙の小さなポチ袋を買ってくれて、坂を下り、駅でお別れしました。辺りは暗くなっていたので、私はその嬉しい気持ちを抱いたまま、自宅最寄り駅のバーでひとりお酒を飲みました。

彼は、デート終わりのメールも完璧でした。私もそれに返信し、それ以降、私たちは何の連絡も取りませんでした。

きっと練習はもう要らなかったのでしょう。きっとそれ以降は、彼にとって練習してはいけない領域なのです。

彼との恋は始まらなかったけど、私はその予行練習に満足していました。あんなデートがまたできるなら嬉しいと思って、彼の本番を心から応援するのです。

夜の神楽坂は長い長い時間が待っています。小径に隠れてキスをして、違う街へエスケープしても良いでしょう。あの街の夜は大人で紳士的な彼によく似合います。おやすみなさい。

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