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知って比べて息をして。

知らない街へ行く。私のコトを誰も知らない街へ行く。

部屋の奥、クローゼットのその先の、誰も知らないお気に入りの服に手を伸ばす。しばし眺める午前3時。

いつもはしない髪型をして、あれやこれやと鏡の前で悪戦苦闘の試行錯誤。

カラーコンタクトを忘れてた。違う私になるように、願いを込めて当てはめる。初めて買ったグロスを塗って、いつもと違う靴を履き、私を知る人が居ないだろう街へ出かける。

なんでこうするのかですって?

何故誰も知らない街へ行くのかですって?

なんで一人ぼっちになろうとするのかですって?

その恰好はいつもと違うじゃないかって?


そんなの簡単よ、好きだからよ。

知り合いが居ると意味がないからよ。

アナタが「独り」と「1人」を一緒にしてるからよ。

これは私の一部だから、間違ってなんかいないのよ。


出来上がった私は、思い描いたように可愛らしい。授業中にあれこれした空想がそのまま鏡の中に映ってる。私は、今、誰も知らない私になった。


普段使いのお財布を中身ごと置いてきぼりにして、新しい普段使いのお財布を、こじんまりとした鞄にヒョイと詰める。中身はハンカチーフとリップグロスのみ。新品同様の靴は、古い畳の部屋をザラリと鳴らした。そのまま部屋を出るといってきますも言わずに私が生まれた家から抜け出した。

靴のまま外に出るなんて!と、普段のママなら怒るだろう。今は玄関横のキッチンで、安くて甘くて度が強いお酒で夢の中だから、心配ない。パパは出張と言う名の若い後輩とよろしくやっている頃だから、家に帰ってきても、私が普段からいない時間なので、制服さえ無いものとして隠しちゃえば居ないなんて気づきもしないだろう。

家の電話線は先日の両親の夫婦喧嘩の時にママが引きちぎったままだ。私のスマホは寝る前に電源が切れたので、飲んでたお茶でも溢しておいた。

さぁ、どこに行こう。

どこへだって行ける。

気の向くままに、この足が千切れるまで進もう。

始発がくる。

本当の私らしい夜明けだ。



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