見出し画像

【読書メモ】ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン ピーター・トライアス著

第二次大戦で枢軸国側が勝利した歴史改変SFもの。メカニック設定豊富な「高い城の男」かと思ったら全然違った。めちゃ人間ドラマ。

冷酷無比にして有能な特高警察の昭子とプログラミングの腕前を活かして困難を飄飄と切り抜けるベンの二人が主人公。昭子は特高然とした威圧的かつシニカルな口調。質問と尋問の区別がつかないが、時折深い諦念と知性が垣間見える。

「万物は再利用される。星屑も、牛糞も、人の骨灰さえも。脳の電気パターンを例外とする理由はない。貴様は信じないのか?」

どうしても草薙素子のイメージがつきまとうのだが、もっとアグレッシブな感じ。序盤でベンが遭遇する秘密の連絡係が登場し、秘密の電話相手との会話のために体内に電話を隠しているのだがそれがちょっと攻殻っぽいので連想が働いたのかも。全体的にサイバーパンクっぽい世界観なのもある。

ベンの本名は紅功(べにこう)という。女性のような名前だと本人も肩をすくめる。検閲局に務める軍人だが、電卓と呼ばれるこの世界のマルチデバイスを巧みに操るプログラマー気質。飄飄としているが、幼い頃両親を当局に告発したという暗い過去を背負っている。その理由はエピローグで明らかにされる。

登場人物は魅力的だし、時代設定も緻密に作り込まれている。戦後 40 年ほど経った USJ (日本合衆国)と呼ばれるこの国で見られる、魔改造されていった日本の風俗が興味深い。舞台上で披露されている芸がどれも自分を痛めつけるものばかりだったり、海外から観ると日本の芸能には猟奇的な面があるのだろうかと思わされる。グッドオールド日本企業のサラリーマン的マインドが一般市民にも浸透していたりしてちょっと笑える。たとえば酒を飲んでひたすら歌うことで同僚たちと絆を深めることが上司の気まぐれと横暴に耐えるために必要だという認識があったり。

統治者側である彼らが心に秘めた辛い過去と、死と隣り合わせであり自ら死をもたらす存在でもある彼らの交わすセリフから読み取れる死生観が印象的だった。最初はニヒルだった昭子の態度がだんだん変わっていくあたりも◎

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?