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【短編】梁川リベンジャーズ

誰でもない誰かの話

12月14日
午前2時
作戦決行の日。
仇討ちだ。

「なんで浅野が退学なの?」
2年の3学期
バスケ部のエース浅野が
退学処分になった。

3月14日
春の予選に負けた全責任を
顧問の吉良がエースの浅野に被せて
全校集会で謝罪をさせた。
浅野は流石に納得がいってなくて
吉良に職員室の前の廊下で抗議した。
俺ももちろん納得がいかなかった。
「歴代の2年はな、
春の新人戦東北大会行ってんだよ。
勝てなかったんだから、な?
謝るのは、当たりま…」
浅野が吉良をグーで殴った。
吉良は何メートルか吹っ飛んで鼻血を出した。
もともと気性の荒い浅野だった。
日頃から、浅野ばかりに
あたりが強い吉良。
溜まりに溜まったものが噴火した。
「流石にやべぇよ!浅野!!」
「大石!俺はもう我慢の限界だ!」
また、殴りかかろうとするから
「堀部!!浅野をおさえてくれ!!」
堀部と2人で抑えた。

職員室に逃げ込む吉良が
「浅野!!退学だ!!」
吐いて捨てるように言った。

バスケ部のエースだったのに
浅野は退学になった。

バスケ部も3ヶ月の休部になった。

書きたくもない退学願いの書類を
校長、教頭、担任の前で書かされて
浅野は梁川東高校を去った。

春休みに入り、
やることがない俺たちバスケ部四十六人は
広瀬川の土手を走って、
ボールを持ち寄って
なんとか地道に練習していた。
「みんな、マジでごめん。」
親水公園で浅野がみんなの真ん中で
土下座をした。
「そんなことすんなよ、浅野。」
「そうだよ、普段から吉良には
ムカついてんだよ俺たち。」

吉良は自ら願い出てずっと願っていた
女子バドミントン部の第3顧問になった。
「なんで浅野が退学なのに
吉良は良い思いしてんのかな。」
「つーか、女子バドって、マジ、アイツきも」
「浅野、これからどうするの?」
俺は主将だし、
浅野は小学校からずっと一緒に
バスケやってきたしマジでもっと
なんかしてあげられたんじゃないかって。
「ファイヤーボンズの試験受けようと思う。
なんだったら、FSGで、
1年からやり直そうかな。」
福島県にある唯一のプロチームが
ファイヤーボンズで、
郡山の高専FSGカレッジリーグには
アスリート養成コースがあった。
浅野にとってはそれもありな道。
「でも、当分、から揚げ伊達屋でバイトかな。
親、めっちゃ怒ってて家出てけってさ。」
「え、どうすんの?」
「出ていくとこなんかねーしよ、
どーすっかな…。」
「うち来ても良いけど…。」
「まじで?行こうかな…。家に居場所なくてさ」
「だろうね」

浅野は結局、親が許してくれて
うちにくることはなかった。

「やっぱさ、浅野の仇とりたくね?」
ゴールデンウィーク明けに
部活が再開されて
堀部が俺に言ってきた。
新しい顧問の小林には
俺たちの話しを聞かれたらヤバい。
そんな気がした。
小林と吉良は梁川駅前の同じアパートの
別な部屋に住んでいる。
「堀部、部活終わったら
まちの駅やながわ集合な。」
「りょ」

まちの駅やながわは
5時には終わるから行っても真っ暗だった。
近くのセブンで
から揚げ棒とコーラを買って
外にあるベンチに座った。
スマホのライトをつけて作戦を練る。
「堀部、部活中は絶対内緒な。
あとさ、リベンジ用に
LINEグループ作ろうや。」
「そしたらさ、
グループ名つけん?」
「なんて?」
「リベンジャーズ」
「東京リベンジャーズじゃん。」
「違う、梁川リベンジャーズな。」
「オッケ、誘っとくわ。
なあ、主税も入れて良い?」
「1年だし良いよ。」
主税は弟だ。

夏には四十七人全員が
リベンジャーズの
グループLINEに入った。

梁川のメインストリートで開かれる
夏の一大イベント
伊達のふるさと夏祭りに
全員集合。
親水公園の階段で
ステージイベントの
オラトリオを見ているふりをしながら
作戦を練った。
「やっぱアパート襲撃しようや。」
神崎が言う。
「マジそれビビるよな。」
赤垣が続いた。
「何する?やっぱすげー嫌なことしたいよな」
大高が一番、吉良を嫌っていた。
「俺、夜中起こされて、
水かけられたらマジ嫌だわ」
俺が言った一言にみんなが静まり返った。
オラトリオの演奏がクリアに聞こえる。
「いや、なんかごめん。
もっとえぐい方が良いよな。」
「いや、それ良いよ、大石!
夜中にインターホン鳴らしまくって
ドア開いたら水ぶっかけてやろうや!」
「それ、寒い方が嫌じゃね?」
「真冬の深夜、マジきついわ。」
「大勢で押しかけて、みんなで水かけよう!」
「アイツんち1階?」
「そうそう、1階の2号室。」
「そしたら、めっちゃ窓叩かん?」
「割れねーかな。」
「割れっかなー」

つまり、仇討ちの作戦はこうだ。
真冬の夜中にアパートを襲撃。
部屋の後ろの窓を叩く班、
インターホンを鳴らしまくる班に分かれる。
吉良が玄関を開けたら、
バケツの水を何回もぶっかける。

作戦を立てること、
もしかしたら
退学になるかもしれないことを考えて、
決行の日を決めた。

それが12月14日だ。

作戦には、マネージャーは加えていない。
女子だし、こんな野蛮なことはさせられない。

秋から道具を揃え始めた。
部活を引退した俺たち3年は手分けして
ダイユーエイトで、
懐中電灯二個と
バケツを47個買った。
つまり、1人一回水をかけるってこと。
そのタイミングで恨みつらみを言うんだ。

浅野にはこの話しをしなかった。
から揚げ屋でバイトをしていて
俺たちより早く社会人になっていたから。
これは俺たちだけの復讐劇って決めた。

受験も就活もみんな順調だった。
塾で模試を受ければ、
俺は、志望する大学に
A判定で合格できるお墨付き。

その未来を失っても、
作戦は決行しなければいけない。

12月13日
バスケ部の元マネージャーの
理玖と阿武隈急行に乗って
福島のまちなかに服を買いに来た。
つまり、デートだ。
俺たちは付き合ってる。
「珍しいね、大石。服欲しいなんてさ。」
理玖は、いつも俺を呼び捨てにする。
「あ、このパーカー大石、似合うよ絶対。」
「まじ?じゃあ、理玖も着なよ。」
「えー?リンクかー。良いけど。」
お揃いのパーカー。
明日、俺がすることを知ったら
もしかしたらお別れかな。

まちなかを手を繋いで歩く。
イルミネーションがなんとなく
現実離れして見える。
「理玖と付き合って良かった俺。」
「え、うちも。」
どうせ誰も見ていないから、
抱き寄せてキスをした。
「大石?」
「めっちゃ好き。ありがとう。」

帰りの阿武隈急行はガラガラで、
俺たちは、ずっと手を繋いでいた。

俺が何かしようとしているって
感じていたのか
理玖は俺の手を強く握り締めていた。

午前0時
この冬一番の冷え込み
曇天の空から
ふわふわと雪が降りてくる。
黒いウインドブレーカーに身を固めた俺たちは
玄関側に二十四人
反対の寝室側の窓外に二十三人
表裏分かれて四十七人。

玄関の方の司令塔は俺。
窓の方の司令塔は堀部。 

午前2時スマホのタイマーが鳴る
堀部に電話をした
「作戦開始!!」
インターホンを鳴らしまくった。
ピンポン!ピンポピンポピンポン!
外にも響いてすげえうるせえ。
窓の方からもドンドン叩く音が聞こえる。
「はいはいなんですか、近所迷惑…」
玄関が開いた。吉良だ。
「わああ!!」
俺たちは必死で水をかけた。
恨みつらみを言いながら、
吉良が溺れるくらいどんどん水をかけていった。
震えながら凍えて
風呂場に駆け込む吉良が見えた。

俺たちは走った。
「吉良上野介!討ち取ったりー!!!」
「誰それ?」
「こういう時代劇あったんだよ。
YouTube見てたら。」
「知らねーけど、やっつけた感やべえ」

俺たちは、親水公園まで広瀬川の土手を走った。

親水公園のステージには
何も言ってないのに浅野がいた。

浅野を囲んで
みんなでバケツを掲げて勝鬨をあげた
「エイ!エイ!オー! エイ!エイ!オー!」

卍どもえと降る雪の中
黒いウインドブレーカーに
黒いブーツの四十八人
梁川リベンジャーズは
復讐劇に幕を閉じた。

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思いついて、忠臣蔵を
現代版にアレンジしてみました。

仮名手本忠臣蔵は
みんな名前違うんでご注意を。

みんなのフォトギャラリーより
いしかわいづみさんから
写真お借りしました。



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