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【創作短編】婚活男子

落語として書いたもの。
しかし、これは、一つの物語になった。

【婚活男子】

世の中に
結婚
を意識して
日々に立ち向かう男子が
どれくらいいるだろう

私は
私ほどに
結婚
にポジティブ
つまり
前向きで
情熱的な人間
は、そういないのでは?
と、自負している。

つまり
世の女性よ!
私に出会えば
結婚へは
0日でスタートを切れる
と、いうことである。

私は、
交際期間
などには
縛られない。

そんなもの1秒だってなくて良いっ!


「齊藤さんて彼女いたことあります?」
そう、私の苗字は齊藤だ。
私は
街コン
に参加した。

「すいませーん、生くださーい。
でぇ、何でしたっけ?
そう、私、まぁ、
バツイチなんですね。
いくつに見えます?」

この 
いくつに見えます?
は、だいたいで当てろなのか
それとも
若く言うのが、正解っ!
ってパターンなのか。

「実は、25なんですよ。
バツイチで、
今、待機児童抱えて。
実家だから危機感
ないんですけど。
あ、齊藤さんて
何の仕事してます?」

ほうほう、25とは
大層お若く見える
どう見ても…
って、
絶対に
25歳
ではない。

「あ、25って嘘だと思ってます?
免許証見せますけど。
で、さっきから
全然喋りませんけど。
齊藤さんて無口なんですか。」
「いやいや、むしろ、喋ります。」
「うけるぅ。」
「何も面白いことは…」
「齊藤さんてぇ
どこに住んでるんですか?」
「仙台に」
「七夕んとこ?」
「笹かまの」
「牛タン」
「萩の月」
「伊達政宗」
「定禅寺通り」
「何の話だったけ。
趣味あります?
私はぁ、
子供と一緒に
戦隊ヒーロー
追っかけやってんですけど」
「ああ、イケメン目当てで」
「まあ。いけませんか?」
「いえ、そんな。」
「あ、時間切れ。」

何の収穫も無い時間だった。
何なんだ、あの女性は。
何の話をしたんだ、今、私は。



はっ!!
街コンのことを
思い出していた。
なんてことだ。

まぁ、あの時は
そんな気持ちになったなぁ。

でも、私には
街コンは向いてなかった。
同じ職場の女子には
かなり笑われた。

「ぶっはっ!
ウケんですけどっ!
つーか齊藤さん!
合コンですよね?
茶会行ったんじゃなくて
合コン行ったんですよね?
街コンて合コンですよね?
誰っとも連絡先
交換しなかったんですか?」
「あみちゃん、そんなに
面白い話はしてないよ、私は」
「だって、ただ話聞いてたって、
何しに行ったのか、
アホですかって思って
あー、うけるー。」
「喋る隙もなくて」
「圧倒されたんですね。
その女、嘘ついてますよ。
たぶん、
彼氏いるけど暇だから来たんですよ。
いやいや、何年分笑ったかなぁ。」
「いや、私は真剣に…」
「だいたい、齊藤さん、
本当に結婚したいんですか?」
「もちろん。」
「だったら、街コンなんかで
圧倒されてちゃダメですよ。
だいたい、齊藤さんて
仕事何やってるんですか?
バイトリーダーですよね。
あと、
何でしたっけ?」
「季節に合わせて、
飲食店を点々と。
流しの板前……」
「街コンの女は
街コンの男の何見てると
思ってんですか?」
「え?顏?」
「バカですか?
生命力ですよ。
仕事もお金もない。
何が何でも手に入れようって
気持ちもない。
喋りもリードしない。
そんな男が
街コンに行って
女を捕まえられるわけ
ないじゃないですか!」
「やめて、胸が張り裂けるっっ。
あみちゃんの旦那さんはさ、
生命力がある人なの?」
「うちは、まぁ、普通に。
とにかく、齊藤さんは
街コンには向いてません。
もっと
自分に合う方法をとるべきです。」
「私に合う方法?それ、何?」
「趣味を活かして、
結婚に結びつけるんですよ!
うちの場合、
肉好きの祭典
肉フェスで出会って
2人とも、やっぱ
イノシシうまいよねって
話盛り上がって
価値観合うなって
結婚したんですよ。
だから、価値観の合う人の集まるとこ
いけばいいんですって!」
「ん?
とすれば
何フェスに行けばいいの?」
「フェスは例えばの話です。
ほら、齊藤さんて
落語やってるじゃないですかぁ。
「無いよ、落語フェスは。」
「じゃなくて、大会とか」
「大会?無理無理!」
「優勝狙えって
話じゃないんですよ。
落語やってる女子なら
無理しなくても
話せるんじゃないですか?
私は落語全然興味ないですけど。」
「あみちゃん、サラッと
心に刺さること言うね」
「だって、扇子で蕎麦食べたり
手拭いが財布とか?
あと、なんで
正座なんですか?
しびれるし。
文七元結、一時間ですよ?
だいたい、
仕事の途中で碁打ちます?普通」
「詳しいね。
俺、文七元結、聞いたことないや」
「とにかく、齊藤さんは大会に出る!
それしかありません!」

だから
私は今、大阪にいる。

社会人落語日本一決定戦。
古典落語、ざるやが審査を通った。

池田駅前で開会式。


しかし、
なんだ。

ここに集まってる人は
全員仲間なのか?

ウェルカムムードと
アウェイ感が入り混じっている。

ここに私の嫁候補はいるのか?
嫁、とにかく嫁!
嫁を探さねば!

「探さねばっ!」
「は?」
「あっ、すいません。
つい心の声が。」
「会場の列探してるんですか?」
「は、はい。
えっと、あ、池田会館です」
「あ、ここであってますよ」
「おっかぁ、疲れたー。
ねぇ、おっかさん、
あたい疲れたっ!」
「おんぶする?だっこする?」
「かわいいですね、
女の子ですか?」
「よく言われるんですけど、
男の子なんです。」

へぇ、こどもつれてくるんだ。
なんだか、
金坊みたいな子だなぁ。
ん?あれ?
どこかで、どこかで…。

「あの、間違えてたら
あれなんですけど」
「はい」
これは、もしかして。

「えっと…齊藤さん?」
「ええ。そうです。」
「牛タンの」
「萩の月の…」
「誰?おっかさんの友達?」
「いや、あの」
「先のおとっつぁんじゃないやなぁ
次のおとっつぁんか?」
「本当だったんですね」
「え?」
「待機児童…」
「嘘だと思ったんですか?」
「だって、ねぇ、うん、
あーいうとこはね、
嘘つくもんですよ。」
「嘘ついて相手が見つかりますか?
てか、なんで?
なんでいんの!!?」
「それは、こっちの台詞ですよ」
「おっかさん、市長!始まるよっ!開会式!」
「あ、うん。」
「楓ちゃん、秋ちゃん、
ひさしぶりやねぇ」
「ハニワのおばちゃん、
 ひさしぶりやなぁー!」
「秋!塙さんだってば!もう」
「ええって、ええって!
今年も会場同じて嬉しいなぁ。
楓ちゃん出番の時は、
秋ちゃん、おばちゃんと遊んでよな。」

よりによって
街コンの女に会うなんて。

なんて、日本は狭いんだ。

しかも
落語やってるなんて…。
雰囲気からするに
毎年出てるんだな。

なんか、楽しそうじゃないか。

「おじさん、おじさん、
みんな移動してるよ。置いてかれるよ」
「秋!何してるの!」
「おじさんてば!」
「行くでー秋ちゃん。」
「おじさん!」
「齊藤さんもついてきてください」
「え」
「はぐれますよ!」

待て!胸が高鳴る。
慣れない池田市にいるからか?
こどもに声をかけられたからか?
なんなんだ?
なんなんだ?

「楓ちゃん、秋ちゃん、
お昼おうどんでも食べよか?」
「良いですね。 
塙さんも私も出番2時過ぎだし」
「おじさんも一緒に行こう」
「いや、あの…」
「紅葉亭落葉さんも出番、3時前ですね。」
「なん、なんで、私の名を」
「実は街コンの時から
落研の3年先輩ってわかってました。」
「同じ大学?同じ落研?
そんなうまい話があるわけない」
「晩秋亭三日月って言います私」
「ああっ!」
「自分が名前つけた後輩のこと
忘れますか、普通!」
「秋ちゃん、おばちゃんと2人で
おうどん行こか。
なんや、
2人にした方が良さそうや」
「おばちゃん、わたい、
たこ焼きも食べたいねん」
「ええなぁ。
そしたら、たこ焼きにしよか」
「ええなぁ。ほないこか」
「えっ、ちょっと、塙さん、ご迷惑じゃ…」
「ほな、行ってくるな。あとで」
「おっちゃんもあとでな」

あれ、どうしたらいいのか。
「落葉先輩、
落語続けてたんですね」
「まあ、うん。
三日月も。
気づかなくてごめん。」
「別に良いんですけど」
「秋ちゃん、いくつなの?」
「今年、4歳です」
「幼稚園?」
「こども園に4月から」
「へぇ。三日月、変わったね。
髪長くなった。」
「髪?」
「昔はベリーショートだったじゃん。
ほぼ坊主。」
「覚えてますよ。
私、入部した時
先輩に住職って言われたんです。」
「すまなかった。」
「落葉先輩には
ずっと憧れでいて欲しかった」
「え」
「大好きだった」
「え」
「あの蛙茶番」
「嘘でしょ」
「擬宝珠」
「よせよ、変態じゃないか」
「鈴ふり」
「確かにあの頃はどうかしてた」
「あんな変態めいた噺を選ぶ
奇をてらった感じが、すごく好きだった」
「その時に言ってよ」
「どうしてまた
私の前に現れたんですか?」
「いや、それは偶然」
「ざるや
なんてあなたには似合わない」
「いやいや、擬宝珠じゃ出られないよ」
「私は、街コンですぐわかったのに
落葉先輩って」
「三日月、街コンで嘘ついたよね」
「え」
「歳、25だなんて。
10歳はさすがに…」
「だって、気づかないから…」 
「三日月、どこか見て回らない?」
「…はい」
「大学の時の大会、覚えてる?策伝大賞」
「先輩は、やかん。私は火焔太鼓でした」

大学時代の落語大会 策伝大賞は
スリリングだった。
予選6分に命をかけたものだった。
後輩の三日月は、
火焔太鼓をどうしても6分に縮めて
出るという。
それは無理だと言ったが、
見事に編集した。
結果は、
二人とも予選敗退。
私は、この大会で
大学落語を引退した。
三日月は、
その後の三年間、
大根多を縮めて大会に
挑み続けたという。

だから、
きっと社会人になっても
そんなことをしているんだろうと。
私はたかをくくって見ていた。
やれやれだと。

しかし、
三日月の高座は

「世の中に知ったかぶりがいまして、
大抵のことを知っているんですが、
知らないことも
知ったふりして話します。
先生、先生いますかー…」

私の数年前の得意ネタやかんだった。
私よりも軽やかで
私よりも端切れが良かった。
背中に冷や汗を感じる。
でも、
不思議と嫌な気はしない。
何年も経つのに
何年も見ていないのに。
成長した姿が嬉しいというか。
この後数十分後、
高座に上がるのに
気持ちが高まる。
高揚感。

「おじさん、
おっかさんの落語、最高だろ」
「うん、最高だな」
「大学生の時に、
お手本にしていた先輩がいたんだって。」
「へぇ」
「おっかさんは、その人に会わなくても
ずっと、その人の録音聴いてるんだ」
「え」
「 疲れた時いっつも聞いてる。
矢に当たってカーンのとこで
笑って元気出してる」
「そうなの」
「もしかして、好きだったのかなぁ。
どう思う?」
「え?どうかな」
「おっかさんはさ、
あたいが起きる前に家出て
あたいが寝てから帰ってくるんだ。
うちには年のいった
じいさんとばあさんがいて
あたいの世話ぁしてくれるから
あたいはちっとも寂しくないよ。
でも、おっかさんは
おとっつぁんがいたら
楽なんじゃないかなぁ。」
「君も大変なんだな」
「おじさん、結婚してるの?
してないよな?指輪ないもんな?」
「してないよ」
「彼女はいるの?
いないよな!モテなそうだもんな!」
「出番前に凹ませないで」
「うちのおっかさん、もらっとくれよ。
あたいはおじさんでも全然構わないから」
「は?」
「おっかさん、
この大会にずっと出てたのは、
この大会で先輩に会えたら良いなって
そういうことなんだよ。
おじさんが先輩なんだろ
録音のやかんと
おんなじ声だ!
だから、あたいの
おとっつぁんになってよ
おっかさんは絶対
おじさんのこと好きだよ!」

私と出会えば、交際0日…。
そうは決めているけど
こどもから言われても
本人がどうなんだ


「紅葉亭落葉さん、紅葉亭落葉さん」
「はい」
「もうすぐ出番ですので控え室にどうぞ」
「はい」

落ち着け。
高座のことより
今起きたことで
頭がいっぱいだ。
ここに来て
結果を残して帰らないと。

ん?
結果を残す?

それは、
私が求める結果は

「落葉先輩、がんばって!」
それは、
結婚だ。

「緊張してます?」
「みっ、みっ、…三日月!」
「水飲みますか?」
「う、うま」
「うま?」
「うっ、上手くなったな」
「ありがとうございます。
前回らしてもらいますね。」
「お、おう!」

口が
手が
足が
全身が
震える。

あれ、
脳内でミスチルが
再生されてる
きーみがすきー
きーみがすきー

気持ちがどんどん
そういうモードに

待て、
そもそも
三日月のこと
どう思っていたんだ

三日月は私を
どう思っているんだ?

待て待て
ミスチル
桜井和寿!
慌てるな
その歌は違うかもしれない

いや、
皆まで言わなくても

いや、
待て!

困惑
パニック

とりあえず落ち着け!

私「まずは落語だ」

そうだ、
まずは高座を務める。

出囃子が聞こえる
落語の世界が私に降りる
高座の上では名人のつもり
座布団に座ったら大看板のつもり!

頭を下げて
頭を上げたら、
お客は私に見とれてるつもり!

渾身のざるやを見せてやれ!!!

「えー、縁起を担ぐなんてぇまして。
 あたしも何方かと言えば、
担ぐ方で、
ウケた日の足袋は洗わないんです
何日も続けてウケたら
真っ黒んなったって
履き続けます。

だから、今日も真っ白。
新品同然でね。」



探さなくても目がいく。
あの子はいつも、
決まって
一番後ろの上手にいるんだ。

ニコニコ笑ってこっちを見てる。
本当に落語が好きだって顔して
役者が逆に惚れちまうような顔して。

たった一年、
一緒にいただけの
大学の後輩。
ただ、それだけの関係。

今日から何か始まる。
きっと、
この池田から。
きっと
この社会人落語日本一決定戦から。

落語を
やめなくてよかった。

大学を卒業してからも
続けて来た。

何に捨てられても
落語は
私を見捨てなかった。

落語が好きだ。
落語が好きなあの子が
落語が好きな私を見てる。

笑ってる
あの子が
笑ってる

あの子のこどもも
一緒んなって
笑ってる

あの二人に混ざって
好きな落語見て
思いっきり笑ってみたい

この高座が
終わったら
この10分が終わったら
この気持ちが
本物だったら

伝えよう

だからサゲまで
席を立たないで

上下降ってる間に
いなくならないでくれ

視界が二人を捉えるたびに
胸の高鳴りが強くなる

これは
確定だ

私は
あの子が…
きっと、そうだ


「それではお聞きください。
Mr.Childrenで君が好き」

サゲまでもう少し

「あがぁる~だんばしーご

     番頭さん、金庫ごともっといで~」


この日、
この瞬間
間違いなく
確信した


「それにしてもお前さん、
     すいぶん縁起を担ぐんだね。

    いいえ、旦那を担いでおります」

顔を上げたら
あの子はまだいるのか

上がる上がる拍手が上がる


顔を上げたら
あの子が涙流して笑ってた。

心が叫ぶ
あの子にまっすぐ
声を届けたがってる。

晩秋亭三日月さーん!
あたしと結婚してくださーい!
きっと幸せにしますからー!




婚活男子
2018筆



初めて友人ために書いた
ネタだったんです。
もとはね。

友人は、
優しい男です。


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