息子が急性散在性脳脊髄炎になって倒れた話27

息子が倒れてから13日目。

一般病棟に来てから初めての土曜日だった。

看護師さんの人数も少なく、今まで毎日組まれていたリハビリや検査も無かった。

そんな静かな午前中を過ごした長男は、私が面会に訪れると同時に「寂しい」と訴えた。

長男が倒れてから約2週間。

1週間前の土曜日はやっと目覚めたばかりの長男の様子に気を取られ、病院内の雰囲気を見る余裕は無かった。

この日の病棟内は確かに静かで、看護師さんの人数もあまり多くは無いようだった。

前日の面会時に「土日はリハビリが出来ないので、できたら自主的に片足立ちなどやってみてください」と言われていたが、この日の長男はとにかく甘えたい一心で、常に抱っこか楽しいことだけしたいようだった。

『両親のそばが一番安心出来る場所です。本人の気持ちを聞いてあげる時間も取ってあげてくださいね』

カウンセラーの先生の言葉を思い出す。

無理矢理リハビリをさせてもやる気も出ないだろう。

まずは思いっきり褒めて、長男の話を聞く時間にしよう。

そう考え、この日は思いっきり甘やかすと決めた。

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病棟内には、ソフトマットが敷き詰められた遊び場のようなエリアがあり、おもちゃや絵本がたくさん置いてあった。

面会開始後に「寂しい」と言ってくっついていた長男は、落ち着くと抱っこをせがみ、そのエリアへと行きたいと言った。

長男をぎゅっと抱きしめながらゆっくりと遊び場へと向かう。

入院後、長男を抱っこしたことはあったが、立ち上がって抱っこで運ぶのは初めてだった。

そのときの長男の幸せそうな笑顔は今でも忘れられない。

ママに抱きしめて抱っこをしてもらう。

そんな些細なことで心の底から満たされるほどに、彼は不安で、愛情に飢えていたのだろう。

そう感じ、胸が苦しくなる。

少しでも早く、彼を家に連れ帰りたい。

けれど、少しでも安全な場所に居て欲しい。

その気持ちがせめぎ合っていた。

その後は絵本を読んだり、ブロック遊びをしたり、おままごとをしたり…

長男がやりたいと言ったことは全部やった。

遊びながら、たくさんおしゃべりもした。

今回のことは急だったけれど、それでも一生懸命頑張って治療に向き合っている長男はとてもえらい!と伝えた。

本人は気がついていなかったが、遊びの中に片足立ちやジャンプを取り入れてみたりもした。

いつもよりテンションも上がっており、少しくたびれてきていた長男の様子を見て、病室へ戻ることを提案した。

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この日、長男が1人でいる時間を少しでも紛らわせるために、カードを作って持って来ていた。

スタート地点は病院で、そこに長男のイラストを描いた。

ゴールには私たち家族のイラスト。

そして、スタートからゴールを結ぶ道のりには、面会に来るごとに一マスずつメッセージを書いていけるように、すごろくのようなマスを用意した。

そこにかかれたメッセージを読んでいる時間は両親からの愛情を感じてくれるのでは無いか、と考えたのだ。

そのカードを見ると、長男は「うわぁ!」と言って喜んでくれた。

そして、「僕もなにかかきたい」といった。

私はもっていたボールペンを長男に渡し、来週の献立がかかれたプリントの裏にお絵描きをした。

正直、指先の力がどこまで入るのかよくわかっておらず、ドキドキした。

スプーンやフォークは倒れる前と変わらず使えていたが、それよりも力の調節が必要な作業に思えた。

少し緊張気味で見守る私の気持ちを知ってか知らずか、長男はすらすらすらっと今まで通りの様子で絵を描いてくれた。

明らかに人を描いたと分かる絵に、

「これはだあれ?」と聞くと、なんでもないことのように、

「え?ママだよ。」

と言って、ペンを置いた。

「僕はつかれちゃったから、ママが描いてよ」

そう言って私が絵を描くのを待っている。

あぁ、長男がママを描いてくれた。

きちんと絵も描けるのだ。

思いがけず手先の動きも少し見れたことにホッとした。

利き手でペンを持つことに苦痛が無いなら、あとはやっぱり左手だ。

でも焦る必要は無いよね。ここまで回復してくれたんだもの。

私が焦ってしまったら、きっと本人が一番辛くなってしまう。そうなることだけは避けたかった。






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