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「そして、バトンは渡された」書評 引き継がれる無償の愛

2019年本屋大賞受賞作で映画化もされているベストセラー。

そして、バトンは渡された 瀬尾まいこ

主人公の高校生の優子は、「森宮さん」と呼んでいる父親と同居している。
「森宮さん」が張り切って作る手料理に、感謝しつつも、本当は朝からカツ丼は食べたくない、とは言えない優子。

それもそのはずで、森宮と優子の間に血縁関係はなく、優子が高校生になってから一緒に暮らしている。

優子の産みの母は幼い頃に他界し、血のつながった父は海外赴任。父親の再婚相手の梨花に引き取られ、梨花の離婚、再婚、再々婚によって、家族構成が7回も変わるという経験をしている。

大人の都合に振り回されているのにも関わらず、優子は悲観的にとらえてはいない。
それは、二人の母と三人の父に愛されていることがわかっているからだ。

実母が亡くなったあと、優子と血の繋がりがある父親の水戸秀平は梨花と再婚した。
しかし、水戸がブラジルに単身赴任することがきっかけで、梨花と離婚することになり、優子は実の父親とブラジルへ行くか、継母の梨花と日本で暮らすか選択を迫られる。

小学生の優子にとって、辛い決断ではあったが、優子は梨花と暮らすことを選ぶ。

梨花と優子は二人暮らしも束の間、優子にピアノを習わせたかったという理由で、梨花は泉ヶ原と再婚する。泉ヶ原は資産家で、家には家政婦がいて悠々自適な生活を最初は楽しんでいた梨花だったが、その生活に飽きてしまい、家を出ていってしまう。

梨花は家を出ていった後も、毎日、優子に会いに来た。そして、一緒に家を出ないかと優子を誘うのだが、優子は泉ヶ原の家にいることを選ぶ。

奔放なようでも、優子の意思を尊重する梨花。泉ヶ原は全く血の繋がりがないにも関わらず、優子を家に置き、三年間一緒に生活をした。

そして、泉ヶ原と離婚した梨花が再々婚の相手に選んだのが森宮だった。ところが、森宮と梨花は早々に離婚してしまい、梨花は姿を消す。森宮と二人暮らしになった優子だが、その生活が嫌ではない。

高校の友達を家に連れてくると、お菓子やお茶を運んでもてなし、優子が元気がない時は、餃子を作って励ます森宮。
37歳独身、東大卒で一流企業に勤めている森宮が、優子のために不器用ながらも父親になろうとする姿は読んでいて微笑ましい。

また、優子を森宮のもとへ繋いだ、梨花、泉ヶ原、実父の水戸、彼らもまた、梨花の親として、無償の愛を注いでいた。
そして、森宮がバトンをつなぐ相手とは…。

引き継がれる愛のバトンに、胸を打たれる一冊だ。


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