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#2 西洋美術と東洋美術の大きな違い

『ビジネスエリートのための! リベラルアーツ 西洋美術』、手に取っていただけたでしょうか? 知的好奇心をくすぐって美術館に行きたい欲が高まる良書だと思います。

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前回、東洋美術版が出版されないかなぁとつぶやきましたが、西洋美術と東洋美術の大きな違いに、絵の主題として「自然」を描くかということを挙げることができます。これについてコラムを書いてみたいと思います。

西洋美術でも自然は描かれてるじゃん! と思われるかもしれませんが、あくまでも「主題」として描かれたかという話です。西洋美術ではあくまでも自然は「背景」。

東洋美術に親しんでいると、自然を描くなんてフツー!と思いがちなのですが、自然を主題に描く東洋画のスタイルは実は西洋美術の世界から見るとおかしなことだったのです。

モネやゴッホが日本の浮世絵に影響されたという話は有名ですよね。

 当時ヨーロッパにはなかった独特の遠近法・明暗法などに驚いたということでもあるのですが、モネのような印象派の画家たちは自然を主題に多くの作品を残しました。

 日本においては、13世紀ごろ中国の水墨山水画が流行し、室町時代には雪舟などの優れた水墨画家が登場します。絵の中に人間も描かれていますが、多くは小さく名もない旅人や村人が描かれているだけです。

現在、ヨーロッパ人のほうが自然にこだわるような言動が目立ちますが、ヨーロッパの人々が森羅万象の自然に目を向けるようになったのは18世紀以降と言われています。

ヨーロッパでの日本美術や日本の工芸品への関心は、フランスのブルジョア階級の人々の間で1860年から1920年ころまで「ジャポネズリー」(日本趣味)が流行したことにはじまります。これはいわゆる異国趣味で、シノワズリー(中国趣味)などと同じ感覚です。

こうした趣味の世界を超越して、造形原理、新しい素材や技法、背後にある美学、日本人の生活感や世界観の理解まで関心が及ぶようになったのが「ジャポニスム」です。このジャポニスムの時代とモネの生涯は重なっています。

モネの邸宅には231点もの浮世絵が残されており、日本の風景を模した睡蓮の池は絵にも描かれていて、有名です(フランスに行けなくても静岡県西部の浜名湖ガーデンパークでモネの庭、見られますよ!)。

本書では、「ジャンルの誕生」という節で「風景画」について解説しています(本文244~245ページ)。

「パトロンが絵を注文して買ってくれる時代、それも教会が宗教画を注文していた時代は風景画の依頼などは皆無」で、「純粋な風景画が誕生したのは一七世紀に入ってから」「財を成したオランダの商人たちが、自宅の壁に飾る絵として注文したのが始まり」だといいます。

この節では、風景画のはしりとして、アンニーバレ・カラッチの《エジプトへの逃避》(1603年)を挙げています(「Web Gallery of Art」でCARRACCI AnnibaleとかThe Flight into Egyptと検索してみましょう!)。

本書に書かれているとおり、聖書の一場面を描いているものの、「人物は小さく、画面の九割を風景が占めて」います。

本文では、「同じ主題を描いた作品は、画面一杯にイエスたちが描かれているのが常です。風景はあくまで背景だった時代、この作品は画家が純粋に風景を描きたいがための主題選びと構図だったに違いありません」と説明しています(これも「Web Gallery of Art」でThe Flight into Egyptと検索してみましょう。この作品が描かれた1603年以前の作品はほとんどが人物中心の構図です)。

本書では、前述のモネを代表画家とする「印象派」についても節を設けて説明されています(291~292ページ、印象派の画家にはモネの他にもマネ、ルノワール、ピサロ、シスレー、ドガなどがいます)。

 「太陽光のもとでの光と影が重要な印象派は、アトリエから出て、戸外にイーゼルを立てて現場制作をすることが第一条件でした」といいます。

ただ、これらの作品は「当時の人々には未完の作に見え、非難され」たり、サロンやアカデミーでは「低位のジャンル」とされたりしたため、サロンへの入選さえ難しい状況でした。そのため、展覧会を独自に企画して作品を展示していました。

「一八七四年の第一回印象派展に出品されたモネの作品《印象・日の出》のタイトルが、「印象派」の由来」となりました(「Web Gallery of Art」でImpression, Sunriseと検索してみましょう)。

印象派が生まれる前段階としてターナーやコンスタブルなどイギリスの風景画家や、戸外でのスケッチをもとにアトリエで制作したドービニーらのバルビゾン派、従来のサロンのあり方に異を唱えたクールベ、戸外における太陽光の効果に注目したブーダンら外光派の存在があったことも重要なポイント」としています。

西洋美術では風景画が絵画のヒエラルキーの中では下位の存在として扱われていました。この点は、自然の風景を描いた山水画が評価されていた日本や中国とは大きく異なります。

印象派の登場と彼らの活躍により絵画をめぐる世界が大きく変化したといえるでしょう。

とはいえ、西洋の「風景画」と東洋の「山水画」の世界観は異なります。前者が写実的であるのに対し、後者は観念的で夢想的な世界観をもっています。

日本では近代化にともない、西洋美術の風景画の概念が輸入されて、写実的な「風景画」も描かれるようになります。『ビジネスエリートのための! リベラルアーツ 東洋美術』、出してほしいなぁ…...。

参考:武末祐子「印象派と浮世絵に見られる自然観 ――モネと広重――」『西南学院大学フランス語フランス文学論集』第47巻、西南学院大学学術研究所、2005年10月(西南学院大学の機関リポジトリで全文公開されているので興味のある方は読んでみてください)

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