考察! 鎮魂・序章の世界観
メディア事業部のIです。暑い日々も過ぎ去り、だんだんと涼しくなってきました。今回は『鎮魂 Guardian』序章の世界観について考察してみたいと思います。
『鎮魂 Guardian』とは?
人気作家Priestの再生回数36億回超ドラマの伝説的原作BL小説(台湾リリース版)。重厚な世界観の中での数万年の時をかけた壮大な愛と戦いの物語、待望の邦訳です。(『鎮魂 Guardian』分冊版1~3は無料公開中、続々、各電子書籍で配信されています!)
序章は、郭長城(グォ・チャンチェン)が採用通知書を受け取り、特別調査所に向かうシーンです。(ぜひ『鎮魂 Guardian』序章をお読みになってから、下記の考察を再読していただければ嬉しいです!)※考察は個人的見解です
時間の考察
まず、序章の時間設定から考察していきます。
「旧暦七月十五日」冒頭のこの日付。日本だと何の日でしょうか?
――答えは「お盆」。
お盆はもともと旧暦では7月13~15日に行なわれ、都会ではそれを新暦の日付としてやっています。地方に行くと月遅れの8月13~15日に行なわれますが、こちらのほうが本来の季節感に近いです。
旧暦と新暦では、大体1か月くらいの差があり、旧暦の日付+1か月と考えて本来の季節感に近づけようとするのが月遅れの日付です。旧暦を正確に新暦に直すと年によって大幅にずれたり計算したりするのが面倒くさいので、単純に1か月足して旧暦の季節感を再現しようとしている感じです。
旧暦15日といえば、満月の日。旧暦では基本的に1日が新月、15日が満月というサイクルを繰り返していきます。
中華圏では、旧暦7月は「鬼月」と呼ばれ、地獄の扉が開いて鬼がこの世にやってくる月と言われています。この鬼とは、日本でいうオニではなく、死者の霊魂だとか、幽霊などを指します。
日本でも「鬼籍」(きせき:閻魔大王が持っているとされる記録帳で、死んだらここに名前が書かれる。いわば、死者の世界での戸籍)という言葉がありますが、この鬼は同じような意味を持ちます。
中華圏では7月15日は中元節で、日本でいう「お中元」を交換したり贈ったりする伝承があります。また、冥界の帝の地官大帝の誕生日ともいわれ、冥界の門が開き、先祖の霊やあらゆる死者の魂、悪霊が現れるといいます。悪霊って怖いですね。私の故郷のお盆は割とほのぼのしたものですが、無縁仏がやってくるといわれる地域もありますね。それに近い感覚かもしれません。なんだかよくわからない霊魂も一緒にやってきてしまうという……。
現在、大陸の中元節は文化大革命以後廃れてしまったといわれます。台湾では行なわれていて、昔の北京で行われていた様子は写真でも残されています。灯篭流しをするのは日本と同じです。大陸の大都市では行事を行なわなくなっても日付の概念だけは残っているのだと考えられます。
余談ですが、現代中国や中華圏の国々では4月上旬の清明節(せいめいせつ)のほうが先祖を祀る行事としては有名です。お墓にお参りしてご飯を食べたりお供えをしたりします。これは、日本でも大陸の影響を強く受けた琉球文化圏(奄美諸島以南、主に沖縄県)では、「シーミー」と呼ばれる同じような伝承が現在でも行なわれています。ほかにも、韓国、ベトナムやタイ、マレーシアなどの東南アジアに至るまで、東アジアではよく見られる伝承です。
そして、「深夜二時半」。
――古い表現だと、丑三つ時(うしみつどき:午前2時~2時半)にあたり、もちろん深夜の時間帯です。
昔は十二支で時間を表現していたのですが、草木も眠る丑三つ時という言葉があるように、静けさにあふれた、寂しい時間帯なのは日本でも同じです。『鎮魂』で郭長城が入力ミスだと思ったのもよくわかる時間帯です。
空間の考察
次に、舞台となっている空間設定を考察してみます。
特別調査所の庭には植物が綺麗に育てられているようで、そのなかに「槐(エンジュ)」の木が登場します。鬱蒼とした槐が並んでいて、小さな森のようになっているという描写があります。
前述の時間設定を考えても、気味が悪い光景ですよね。それ以上にこの槐の木は深い意味を持っています。
漢字のつくりからわかるように、鬼という字が含まれていますよね。これがミソになっています。
このエンジュ、日本ではあまりポピュラーではありませんが、公園や街路樹でたまに見かけることがあります。7~8月の暑い時期に白い花を咲かせ、実をつけます。緑の豆のような実を枝につけていたら、それはエンジュの可能性が高いです。中国原産で、大陸ではしだれエンジュが人気らしいです。
中国では鬼という字が含まれるように、死者の魂が宿る木といわれ、どちらかというと聖樹扱いされます。日本でも槐を植えると魔除けになるという伝承がありますが、そういう意味で特別調査所の前に植えられているのかもしれません。
ただ、時間設定と組み合わせると、「死者の魂」というところが共通してきます。しだれているかはわかりませんが、ちょっと怖い雰囲気はありますよね。日本でいうと、しだれ柳に幽霊が現れるような雰囲気でしょうか。
文化的な背景を知っているとより深い読みができる
これらは、物語の本筋には関係してこない、ちょっとした描写です。でも、文化的背景を知っていると、より作品の雰囲気を楽しむことができるかと思います。日本人が考えている以上に、中国人(あるいは中華圏の人々)にとってこの『鎮魂 Guardian』序章の時空設定はおどろおどろしい描写になっているんです。
序章の時空設定は、死者の霊魂や幽霊がいつ現れてもおかしくない日時・時間帯に、それらが現れそうな場所に向かい、そして――という展開につながっています。
BL小説もそうですが、海外の翻訳小説を読んでいくときにこのような文化理解があると、多様な読みができるようになり、楽しいです。中華圏の文化は日本のものとも共通しているものがたくさんありますので、学んでみると面白いですよ!
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