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    • 「息を吸う。冬の冷たい空気が肺に入る。それを吐き出す。透明だった空気が白く色づく。綺麗な白だ。知らない少女みたいな、白だ。」

       四両編成の電車しか止まらない、小さな駅から徒歩二十分、そこに僕たちの家はあった。そこは僕の生きるべき場所だった。その日も、実感のない一日の記憶と会社の書類を鞄に詰め込んで、早足で帰路に向かう。途中で、沈んでくる夕陽が、いつものように怖くなったので、さらに急いだ。  赤く錆びた階段に軋む音を響かせながら、アパートの二階に登り、一番奥にある扉を目指す。サロメはせめて夕陽が差し込む部屋がいいと言った。僕は階段を登るのが大嫌いだったけれど、サロメのためにその角部屋に決めた。けれど、

      • 卒業

        まだ、帰りたくないね    そう言い出したのはどちらからだったか、もう覚えていません。  ただ、斜陽が注ぎ込む教室は、空気に溶け切れなかった光の粒が溢れ出してゆらゆら揺蕩っていて、毎日居る場所なのにどこか夢のようにまどろんでいました。    もう人気者の彼も、しっかり者のあの娘もいないのに、誰に言われずともやはり私たちは教室の隅にいます。  向かい合った机は5cmほど離れていて、風に煽られたカーテンが時々君の煌めいた髪に触れそうになりますが、いつもあと一歩のところで届きま

        • ファーストメモリー

          「〜〜〜🎶」 「なんだっけそれ、あー聞いたことあるんだけどなぁ」 「え!コウくんもあるの?りりむも忘れちゃってさ、なんか、なんとなくは覚えてるんだけど」 「いやうーん、微妙かも」 「えー…ふぁ、ふぁ、ふぁーなんちゃら」 「あー、ファーストキスは……の味〜のcmのやつだ!!!」 「あそれ!!それなの!!!すごいコウくん!すごい!」 「まぁこんなもんすよ…でも肝心の何の味なんだっけ…気になるなぁ、りりむちゃん思い出せる??」 「えー、無理無理〜わかんないよ、だってりりむうろ覚え悪

        • 「息を吸う。冬の冷たい空気が肺に入る。それを吐き出す。透明だった空気が白く色づく。綺麗な白だ。知らない少女みたいな、白だ。」

        • ファーストメモリー

          天体的少年少女

          「来年も一緒に月を見ようよ!葛葉とかも呼んでさ、おもちとかも用意しちゃって、なんか本格的になってきたな」本物の少年のようにはしゃいで話す君の横顔は月光に照らされていて、少し赤く染まっているのがよく見えた。 「いいね〜!」「うわ、いいな〜!!」 適当な相槌を打ちつつ、私はどこか覚めていた。もう、彼とこうして月を見るのはきっとこれが最後になる。約束が破られるのに大それた理由なんか要らないから。新作のゲームが出た、眠かった、そんな理由で私達はこれほど大切なことを忘れてしまう。 人生

          天体的少年少女

          仮 おりコウSS

          りりむちゃんが悪魔の力を使って世界を改変しちゃうお話です。 肉体変化、恋愛ネタ、諸々地雷自己責任でお願いします。 恐らく細部を手直しして再投稿します。 退屈な漫画が嫌い。退屈な映画が嫌い。退屈な人も嫌い。そして退屈な私も嫌い。この徒然な人生には起承転結の起の字もない。 地下深くにある洞窟の湖のように永遠の暗闇が続くだけ。暗闇に慣れてしまった私は目を失ってしまった。たとえ光が現れたとしても、私はきっと気が付けない。 夏休みのとある日、親との喧嘩を起因として私は家出を決行した。

          仮 おりコウSS