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「息を吸う。冬の冷たい空気が肺に入る。それを吐き出す。透明だった空気が白く色づく。綺麗な白だ。知らない少女みたいな、白だ。」
四両編成の電車しか止まらない、小さな駅から徒歩二十分、そこに僕たちの家はあった。そこは僕の生きるべき場所だった。その日も、実感のない一日の記憶と会社の書類を鞄に詰め込んで、早足で帰路に向かう。途中で、沈んでくる夕陽が、いつものように怖くなったので、さらに急いだ。 赤く錆びた階段に軋む音を響かせながら、アパートの二階に登り、一番奥にある扉を目指す。サロメはせめて夕陽が差し込む部屋がいいと言った。僕は階段を登るのが大嫌いだったけれど、サロメのためにその角部屋に決めた。けれど、