365日ライカ:040 人生ベストカメラ。「ライカM10-P」長期使用レビュー
結論から言うと、「ライカM10-P」はこれまで使ってきた中でいちばん好きなデジタルカメラです。
やや気持ちの悪い言い方かもしれませんが、使い始めて「やっと出会えた」と感じたくらいで、2019年2月に購入してから1年以上ほぼ毎日のように首からぶら下げて写真を撮り続けています。
この記事では、そんなライカM10-Pの長期使用レビューをご紹介します。
THE CAMERA. 「カメラ」以上でも以下でもない潔さ
ライカM10-Pはライカ社のデジタルカメラ。いわゆるフルサイズセンサーを搭載しており、コンパクト&高画質を実現したレンズ交換式カメラで、M型と言われるシリーズの最新機種「M10」のアップグレード版です。
その最大の特徴はというと「カメラそのものである」ということでしょう。
2018年末に発売されたデジタルカメラにも関わらず、動画機能はありません。写真しか撮れないんです(ちなみにオートフォーカスも使えません)。
そんな純粋な“写真を撮るための機械”であることを体現するように、デザインも徹頭徹尾「カメラ」です。
背面にもボタンがほとんどありません。
機能増加に伴い、続々とボタンやダイヤルが増えているデジタルカメラにおいては、まさに異質。まるでアップル製品かのようにシンプルです。しかし、これが不便かというと全くそんなことはありません。
“写真を撮ること”それ自体にフォーカスすれば、ボタンはこれだけでも十分ということなのでしょう。
美しくコンパクト。毎日持ち歩きたくなるカメラ
Leica M10-P, Apo-Summicron M 50mm ASPH.
「とにかく触っていて楽しい。持ち歩いて苦にならない」。これが僕にとってライカM10-P最大のメリットかもしれません。
もともと、プライベートでカメラを持ち歩くことは好きじゃありませんでした。仕事でなら気にならない大きくて重いメカメカしいカメラも、日常的に持ち歩くとなると話は別。そのため、これまではポケットに入るiPhoneやGRで妥協せざるを得ませんでした(どちらも好きなカメラですが)。
しかし、ライカM10-Pは、そうした“ガジェット感”や“仕事感”が希薄。ひたすらに美しいデザイン、レンズを含めた総合的なコンパクトさから、持ち出すことが苦になりません。
真鍮のヒンヤリとした感覚と、ブラッククロームのマットな質感。レザーの感触。それらすべてが、まるでずっと使っていたカメラかのように、すんなり手になじみました。
Leica M10-P, Apo-Summicron M 50mm ASPH.
そして、ライカM10-Pの特徴である静かなシャッター音、手に伝わる振動は、まるでシルクのようになめらか。高級セダン車のドアを開閉するかのように感じる人もいるかもしれません。
優れたデザイン、携帯性、操作感。それらが生む“フィーリングの良さ”から、どこへ行くにもこのカメラを持ち歩くようになり、日常のふとした瞬間から、旅先での驚きまで、いろんなシーンを写真に収めるようになりました。
ちなみにほぼ同じデザインのフィルムカメラ「ライカM-A」と比べても、高級感や剛性感はM10-Pが上です。
マニュアルだからこそできる、意識と直結した撮影
僕は世の中の多くのデジタルカメラに、ある不満を持っていました。
それは「電源を入れないと、どんな設定にしているのかわからない」という点。そのせいで、いざ写真を撮ろうとしたら設定がシーンに適さず、シャッターチャンスを逃してしまうことも珍しくなかったからです。
しかし、このライカM10-Pは本体を上から見るだけで、ISO、絞り、シャッタースピード、ピント距離という撮影設定すべてが一覧できるんです。
Leica M10-P, Apo-Summicron M 50mm ASPH.
これによって、屋内に入ったり日向に出たりと、移動中に大きく環境の明るさが変わるたび手元でダイヤルを回して設定を変える癖がつき、シャッターチャンスを見つけてから撮影までの時間がかなり短く済むようになりました。
ちなみにISOダイヤルはM10から搭載された新機構ですが、これがあるとないとでは大違いだと思います。
また、フォーカスがマニュアルであるメリットも速写性に通じます。現代のオートフォーカスは優秀ですが、迷うことがないとは言えません。マニュアルなら、カメラがフォーカスに迷ってシャッターが切れないというあのもどかしさがありません。
多少ピントがずれていようと、撮れないよりは撮っておいた方がいいに決まっています。
肩の力を抜いて自由にしてくれる、レンジファインダー
Leica M10-P, Apo-Summicron M 50mm ASPH.
ライカM10-PほかM型ライカ全体における最大の特徴が、ファインダーにあります。
通常のミラーレス一眼や一眼レフ、そしてスマートフォンのカメラは、レンズを通した世界をファインダーに投影しています。
それに対して、レンジファインダーカメラでは、レンズを通さない素通しのガラスで世界を覗き、ファインダー内の小さな窓で二重像を重ねることで焦点を合わせる作りとなっています。
Leica M10-P, Apo-Summicron M 50mm ASPH.
正直、特殊な操作を要するカメラです。購入前は「面倒くさそうだな」と思っていました。
ですが、いざ使ってみるとなんとも開放的。
というのも、素通しのファインダーの中に、現在つけているレンズで写る範囲がフレームで表示されるため、撮影範囲の外側の様子もファインダーで把握できるんです。
僕はどちらかと言えばファインダーをジッと覗き込んで厳密にフレーミングして撮影するタイプなのですが、レンジファインダーを使うと構造上そうした撮影ができません。
こうしたある種の制約が、写真に対してよりオープンに向き合えるようにしてくれた気がします。
とにかく高画質。撮れる写真が美しい
Leica M10-P, Apo-Summicron M 50mm ASPH.
何をもって“高画質”と言うのかはともかくとして、僕はライカM10-Pで撮った写真を見てとても美しく感じます。
センサーは2400万画素と現代のカメラとしてはごく平均的なスペックですが、数値では測ることのできない色気が感じられるのです。
以前、「ライカはレンズだけでもいい」と言う記事を書きました。
しかし、同じレンズをソニーα7Sにつけた場合と比べても、ライカM10-Pで撮った写真は“何か”が違う。
Leica M10-P, Summilux 35mm ASPH.
いくつかの要因はあるでしょうが、暗部の情報量の多さが“空気感”の表現につながっているのではないかと感じます。
僕はほとんどの写真をRAW現像していますが、同じライカの「ライカQ2」と比べてもライカM10-PのRAWデータの方が優秀だと感じます。
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Leica M10-P, Apo-Summicron M 50mm ASPH.
以上、ライカM10-Pの気に入っているポイントを中心に紹介してきました。
しかし「人生ベストカメラ」といっても、不満点がないわけではありません。
・スリープからの復帰が遅い
これが最大の不満点です。体感では2〜3秒ほど復帰まで時間がかかり、電源OFFからONにしたときよりもスリープからの復帰の方が遅く感じます。
せっかく電源を入れずに設定を確認・変更できるのに、スリープからの復帰が遅いとシャッターチャンスを逃しかねません。そのため僕はシャッターチャンスの予感がしたらシャッターを半押しして、事前にスリープから復帰させておくように工夫しています。
・もう少しだけ軽く薄くなれば最高
M10からはフィルム時代のM型とほぼ同じ薄さとなりましたが、まだちょっと大きいのは間違いありません。もう少しだけでいいので、軽く薄くなればいいなと思います。
・液晶や操作ボタンがフラットになれば最高
上の項目同様、ほぼイチャモンな領域ですが、ライカの中の人が「液晶がまだ出っ張っているのでいつかフラットにできたら」と言っていますから。
ぜひ今後に期待したいです。
スペシャルでありながら、ひたすらに「道具」なカメラ
かなり長くなってしまいましたが、ライカM10-Pの長期使用レビューをお届けしました。いかがでしたでしょうか。
最後に少しだけ補足するとしたら、これは“道具”だということです。
ライカM10-Pは、これくらい語ってもまだ語り切れない部分があるスペシャルなプロダクトです。しかし、これを使ってできることはただ一つ「写真を撮ること」。それだけなんです。
異常なまでのこだわりを持って設計され、組み立てられ、やはり異常とも言える値段で販売されているカメラ。
しかし、その目的は、優れた写真を生み出すという、たった一点に集約されます。
僕もはじめて手にしたときはさすがに物怖じしましたが、それから毎日持ち歩き、小さな傷や汚れを増やしながら、たくさんの写真を撮っています。
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