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夜は短し、勉強せよ乙女


夜の底。
少し黄味がかったアイボリーの光が手元を照らしている。天井にある照明は落としており、自分とデスク上の煌々と光る視界が唯一の世界。家族は寝静まっている。

このお話は、わたくし、地中海性気候の中2時代のとある夜を今風に置き換えて書いたものです。明日はテスト。めちゃくちゃに勉強しているはずです。

先日公開されたかえるさんの記事にインスパイアされて書いてみました。


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デスクの本棚には、カラフルな背表紙で、テキスト、ノート、参考書、そして問題集が立っている。左の壁に目を移すと、時間割の横に今度の試験範囲のプリントが貼ってある。

まあまあ、広いんだよね。

「ふう」とため息をついて、社会科の教科書を開く。
ここは試験に出ます!と話していた教師の顔は浮かぶけど、それがどのトピックスの時だったかは一向に思い出せない。

さあて、覚えるべき大事な所に緑ペンでラインでも引くかと、筆箱をまさぐる。するとコロンと消しゴムも出てきた。
「結構小さくなってきたなぁ♡」
とうっとり手に取る。そして、ノート上の何も書いていない場所をおもむろに消しはじめた。どんどん消して消しカスをどんどん出す。

“消しゴムの帯の下に好きな人の名前を書いておいて、誰にも見られず、誰にも触られずに使い切ると成就する。”


誰が言い始めたのか分からないジンクスを耳にしていた。鼻で笑いながらも消しゴム消費に命をかけていたのだ。消しゴムのボディにはタナ・ケン(好きな人の仮名)と緑のペンで書かれている。

ごし。ごし。ごし。ごし。
ごし。ごし。ごし。ごし。

ごし。ごし。
ごし。ご…し…。

はっ!

わたし、何やってんの?


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教科書に緑のペンでラインを引いていく。「あの教師が出すとしたら、ここだな」と予想しながら。ラインを引き終わったら、赤い下敷きをかぶせて文字を消し、覚えていくだけ。

ふと、視界に前髪が入る。
ぷらーんとまつ毛の前にぶら下がっている。

いつもは、
左側で分けて右目が隠れる感じだけど、
右側で分けて左目を隠すのどうよ。


急に閃いて引き出しから手鏡を出して覗き込む。だってさー、右目の方がパッチリ二重なんだもの。髪でかくれてるのもったいなくないか?

今度はコームを引っ張り出して、右側から左側に向かって髪を分けていそいそとなでつけていく。(前髪がやたらと伸びていた私は、当時、知らないところで「鬼太郎」と呼ばれていた)なでつけ終わるとじっくり手鏡を出して吟味する。また、いそいそと左から右に髪をながしていく。

いかん。いかん。
また脱線してたわ。


📖


問題集を解いていく。覚えたはずのロシアの地理ワードは、全然頭に入っていない。『黒海北側のウクライナ共和国を中心とする地域に黒色の肥沃な土壌が分布しており、その一帯を○○地帯という』この土うまそうだな。

デスクの右側には携帯。
サブスクしているお笑い芸人のゆるいトークがごく低いボリュームで流れている。ヘッドフォンから聞こえてくるタレントの声は弾んでいる。
これを今夜聴いておくと、明日、タナ・ケンと友達が話してる内容がよおーく分かるぞ。

それにしても、投稿を読まれる人すごいな。
私なら何をネタにするだろうか?

まずは投稿ネーム考えてみようかな。


机の上に、コクヨキャンパスノートB罫を開く。
本当は、楷書体の教科書みたいな字を書けるのに、わざと丸っこくかわいくくずした字を並べていく。

おどけたやつ? →  『ニャンコダンサー』
横文字で? →     『HIASOBI』
有名人の一文字だけを変える? → 『シカキン』『菅田将奇』
長ーーーいやつ? →  『銀河英雄伝説水金地火木土天海冥御成敗式目』



あ、ダメダメ!
試験中だったわ。


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気分を入れ替えて二教科目の英語に取り掛かる。まず、試験範囲の新しい単語を覚えてるか確認しよ。
塾からもらったプリントは、片側に英語単語が並び、反対側にそれに対応する意味が書かれている。片側を紙で隠して、単語の意味を考えたり、スペルを考えたりしてみる。『笑う=laugh』ラウグフ?グフフふふ。

そこに、心を揺さぶられるような曲がヘッドフォンから流れ始めた。
ああ!これこれ。サビのメロディラインが切ないなあ。歌詞はなんて言ってるのだろうか。

英語の曲、かっこよく歌ってみたい。


制服のポケットから、大事にしまっていたメモを取り出す。それはタナ・ケンにもらった手製の歌詞カードだった。「あの曲を書き写したぜ!」と言って自信満々でくれたやつ。

アム シンカバ ハウ ピーポゥ フォーリン ラゥイン ミステーリアスウェイ

開くとそこには全部カタカナで全ての歌詞が書かれていた…。
多分、聞こえたままに書き取っていったんだな。これ。たしかにセンテンスを繋げて発音するとこんな風に聞こえるかも(笑)


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今度は穴埋め問題を解いていこう。
疑問詞ってなんでwhから始めるの多いのかな。「分からん。聞きたい。」と感じた時に口が「ぅあ」って形になるからであろうか・・・?

考えていると、目線が机上のデスクマットに行く。そこには大好きなアイドルグループの切り抜きがコラージュして挟まれている。
私の好きなKはなんて目が大きくて澄んでいて綺麗なんだろ。まつ毛もびっしりだなあ。


この瞳を描きとりたい。


筆箱から4Bの鉛筆を出して、カッターナイフでキレッキレに研いだら、問題集の余白に描き始める。

集中して高速で鉛筆を走らせているその様子は、もう、誰が見ても、めちゃくちゃ勉強してるように見えたと思う。

どんどん、夜だけが更けていく。


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私は中学生の時、結構デスクに向かっていた人だったと思う。
一人きりの部屋。
デスクライトに照らされる机の上の世界。
そこは意外と広かった。そして、色んな夢想の入り口が開いていた。安心して、縦横無尽に駆け巡っていた。


結論。


中学生女子は、勉強以外で忙しい。



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かえるさんが紹介してくださるコンテンツはどれもチルい。全部入ってみて、作業用にはやっぱり↓

“lofi hip hop radio – beats to relax/study to”

だなぁと思いました。ヘッダーにも使わせてもらったけど、ループするアニメがエモい。エモすぎる。

思わず一つ記事を書いてしまいました。

ありがとうかえるさん。






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