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ヘンデルのバロックオペラ『シッラ』と歌舞伎モチーフ演出の相性について

ヘンデルのバロックオペラ『シッラ』を観にに行ってきました。ワタクシのオペラメンターでもある加藤浩子ちゃんのリコメンが週末に入り、けっこう仕事パツパツなのに、それらを放り投げて、神奈川県立音楽堂まで行ってきました。バロックオペラの本格上演は日本ではレアなのですよ。

古楽のアンサンブル・オケを使った、バロックオペラに関しては、バリ・オペラ座でラモーの『イポリットとアリシー』体験が強力で、その書き割り感覚な美術や、映画監督ケン・ラッセル作品を髣髴させる、血なまぐさくもある世界観が、脳天気でエッセンシャルな古楽とマッチングしたときの、抜群のカッコよさに心酔して、けっこうYouTubeでいろいろと楽しんでおるのです。

「小劇場で演劇のように、バロックオペラをやったらいいのに」とは、いつも思っていた件ですが、戦後モダニズム建築の雄、前川國男設計のこじんまりしたこの音楽堂でのこの企画は、まさにジャストミート。

さてさて、古楽オケ・アンサンブルの音楽は良かった。というか、チェンバロが通奏音で、普通のオケならば、低音楽器が担当するところをリュートが担う古楽独特の音響は、「弱いモノが強くて、美しい」という昨今、流行の文学テーマのよう。ファビオ・ビオンディ率いる、エウローバ・ガランデのみなさん、グッジョブ。

弦のアンサンブルが第三幕にいくにつれて凄く良く響き出したのは、「バロック演奏にままある、会場の空間と音の慣れ」だと、後でしーちゃんこと椎原君から回答をいただきました。要するに、演奏者たちが、音の響き方を聴いて、無意識にでも調整していく。古楽のアンサンブルは、音響のいいホールだけできなく様々な小バコを経験しているはずなので、さもありなんですね。

歌手は神様役の男性を除いて、全てが女性。中でもクラウディオを演じた、ヒラリー・サマーズが凄くいい。アジリタも効いているし、声の質が好み。特に3幕の6場「美しい瞳が私に力を与えてくれる」と歌うアリアはヘンデルの屈託のない美メロを自在に操って圧巻でしたね。

さて、演出ですが、なんと、衣装とともに背景に富士山や不動明王が出てくる和テイスト、メイクは白塗り隈取りにて、要するに歌舞伎、なのですよ。バロックオペラと歌舞伎の「俗」に注目、オベラ的な立体的な仕掛けができないホールならば、書き割りと衣装で世界観が出せる歌舞伎でしょ! という目論見でしょう。演出家本人も後者に関しては、そうパンフレットで述べています。歌舞伎や能は、クラシック音楽が「新しいこと」をやるときに、出しがちなアイテムですが、それは古典芸能だし「悪口を言われない創作」だからなのでしょうねぇ。

このバロック×歌舞伎の演出でもって、この作品をどこに連れて行くかのイメージは、こちらになまじ歌舞伎の教養があると、こういうテイストには厳しくなるので、そこのところを割り引いたとしても残念ながらが伝わらず、紅白歌合戦の歌謡ショーみたいでした。

バロックオペラの明るくて、軽い「俗」をその表層で表すのが狙い、だとしたら、暴君夫に悩み夫が横恋慕する人妻たちを助ける、寛容と愛の奥方メテッラの、今どき成人式のヤンキー嬢を髣髴させる、頭に真っ赤なお花をつけたキラキラシースル打ち掛けは正解ってことで(涙)。そこ、不肖、OJOU〈オジョウ〉デザイナーのワタクシならば、ギャル方向ではなく、助六の揚巻の打ち掛け、黒繻子地門松系の権力と美のモチーフでいくけどね。

関係ないけど、同じヘンデル作品で、やはりバロックブームに乗って新演出された、バリオペラ座でのロバート・カーセン演出『アルチーナ』。アフターで中華料理を食べた前述、しーちゃんにURを送ってもらって観たら、コレが凄い。

もうすぐ来日する、ナタリー・デセイの体当たりの演技となんという歌唱力(ソッコーでチケットゲット)。こちらは、「島にイケメンを連れ込んで愛欲三昧の魔女」の組んずほぐれつを、スーツとドレスの現代風俗の中でガンガンに描き、それが静謐な音楽と合わさって、もの凄くカッコいい。

ボツドールの三浦大輔演出で、『アルチーナ』やってくれないかな。

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