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短編小説『冬と春』

「この前はアイスコーヒー頼んだのに。またホットに逆戻りじゃん」
「いやいや。3月って毎年そうだから」

3月は暖かい日もあるが、なんだかんだでまだ冬だ。

「そうだっけ?3月ってもう暖かくなかったっけ?」
「いやいや。暖かいなーと思って寒いのが3月だから。毎年だから」

葉瑠(はる)という名前が3月を春と思わせるのか、3月は毎年毎年こんな会話をしている。俺は覚えているのに、葉瑠は毎年忘れる。桜が散って、また咲くように。

「そっか。じゃあ3月は冬と春の間なんだね」
「それさ、去年も言ってた」
「そうだっけ?たっくんは何でもよく覚えてるね」
「だから、たっくんってやめろって。もう25なんだし」

俺は拓海(たくみ)だ。

「いいじゃん。幼なじみなんだし」
「恥ずいじゃん」

恋人でもないのに、とは言わなかった。葉瑠には彼氏がいる。

「コーヒー冷めちゃうから、早く帰ろ。おばさんにお土産渡さなきゃ」

来年の3月も葉瑠と会えるだろうか。



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