短編小説『密かな試み』
僕のパン屋の2軒隣は、5年ほど空き店舗だった。
契約者が決まり、カフェが開店したのは1年前。
カフェに立つ女性はいつも姿勢を正し、ブレンドコーヒーは味わい深い。同じ商店街の店舗。星さんと名前を知るのに時間はかからなかった。
僕は定休日の火曜日以外はパンを焼く。定番の食パンやクロワッサン、人気のカレーパンに、オリジナルの黒糖あんパン。
週替わりのサンドイッチ、月替わりのパンも好評だ。
・
星さんがカフェを開くまで、僕の店の近くにカフェはなかった。
実は、星さんのブレンドコーヒーに合うパンを試している。月替わりのパンで。
今月は自信作だ。チョコチップの配合量を何度も変えた、ビターチョコデニッシュ。どっしりとしたコクのある、あのコーヒーにとても合う。
星さんに手渡す。
「今回は特に美味しいです」
思わず笑みをこぼすと、彼女は異常に笑う。
「やっと笑顔見せてくれましたね」
彼女も僕を試していたらしい。いい関係が続きそうだ。
サポートしてくださった分は、4コマに必要な文房具(ペン・コピック等)やコーヒー代に使います。何より、noteを続けるモチベーションが急激に上がります。