白クマのように、私は氷河期を楽しみながら生き抜く。

私は現在36歳。今年の春で37歳だ。いやいやいや、今26歳でしょと思いながら生きているが、もうカラオケでオールはできないし、筋肉痛は翌日にくるようになった。現実は悲しい。

求人の「35歳以下(長期勤続によるキャリア形成のため若年者等を対象)」を見るたび、目の前にそびえ立つ高い壁を感じる。

バカ正直に書くと、私は正社員として雇われた経験がない。職歴はアルバイトか契約社員、派遣社員のいずれか。現在はフリーランスのWebライターとして働き、社員ですらない。日々なんとか過ごしている。

1983年に生まれた私は、就職氷河期世代にあたる。ディズニーランドとファミコンは同級生だ。

そう。私は、就職氷河期を生きてきたのだ。


アルバイトや派遣社員として真面目に働いた

「就職氷河期」に明確な定義はないが、主に1993〜2004年頃の就職難の時代を指す。非正規で働く人が多い1970〜1985年頃生まれを「就職氷河期世代」と呼ぶ。


大学は中退し、アルバイトしか道がなかった。ただでさえ仕事が少ないのに、卒業できない者をバイト以外で雇うなんて到底思えなかった。

やがて契約社員として別の仕事に就き、奇跡的に年収が倍になった。契約終了後は、派遣社員としてさまざまな職場で働いた。


大学を卒業した友達は地元のスーパーや営業職などに就き、待遇が良い会社に決まったとは思えなかった。職場で出会った同世代の人の中には、大卒で派遣社員の人もいた。

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派遣社員でもアルバイトでも、私は仕事中に真面目すぎるほど真面目に過ごしてきた。サボっている人や手抜きしている人を見ると、心底腹が立つ。


友達が少なすぎて、2006年1月にブログを始めた。仕事や彼氏に関する愚痴に始まり、音楽・資格・社会問題など自分の思いを正直に吐き出せる、貴重な場所だった。


「なぜ勤務中の暇な時間に資料を読み込んでいる私が派遣社員で、勤務中に海外生活の自慢話をウダウダ並べているあの人が正社員なのか?」と、誰にも言えないことをブログで正直に書いた。

どこに住んでいるかも分からない見知らぬ人から「分かります!!!」とコメントが来た時は、友達ができたように感じた。


給料は変わらず、雪だるま式に増える仕事

正社員ではなくても、ありがたいことに度々責任のある仕事を任された。上司が私の仕事ぶりを評価し、信頼した証だと思うと素直に嬉しい。

でも、どの職場でも給料は簡単に上がらなかった。上げるように相談しても「今は厳しい」と言われる。他の人に仕事を振り分けたいと伝えても「他に任せられる人がいない」と言われる。すると給料が変わらないまま、私の仕事だけが雪だるま式に増えるのだ。


そんなの、やってられない!!!


もちろん職場(会社)は大切だが、それ以上に私自身のほうが大切だ。雪だるまはどんどん大きくなるのに、1年経っても「今は我慢してほしい」なんて冗談じゃない。その「今」とやらは、いつまで続くのか?

幸い、年齢を重ねると、職場で気兼ねなく話せる人に出会うこともあった。時にはコーヒーを、時にはお酒を飲みながら、仕事や上司についてあーだこーだ話す。ブログと同じぐらい正直に話す…とはいかないが、20代よりも胸の内を話せるようになった。


正社員になる人生・ならない人生

正社員になれば責任を負うことが増え、仕事は大変だろうと思う。その分給料は増えて貯金がたまり、趣味に使えるお金も増えるだろう。


正社員に憧れがないわけではない。しかし、現実的には厳しいと感じている。心底真面目に働く自信はあるが、自分の職歴を客観的に見ると正社員として勤務できる可能性は低いと思う。


自ら正社員の道を閉ざし、現在は自宅で仕事をしている。せめて、自分の好きなことや得意なことを仕事にして、プライベートの時間も確保したい。

結婚して子供はいないが、夫とは至って仲良く、ほとんどケンカせず、日々楽しく過ごしている。

人生は一度きり。私の人生は、私しか過ごせない。誰かに頼んで、誰かが私の代わりに私の人生を送るなんて絶対に無理だ。しかも、誰ひとり「この道に進めば、あなたの人生はこれから楽しくなるよ!」の答えは分からない。

それなら、私が私の人生を楽しむしかない。

正社員でも、専業主婦でも、政治家でも、おばあちゃんでも、時間だけは平等。ビル・ゲイツがいくらお金を積んでも1日28時間にはならないし、悲しい時も嬉しい時も1日は24時間だ。

それなら、1日をなるべく楽しく過ごしたい。


ホッキョクグマも何か楽しみがあったのではないか?

写真でも映像でも構わない。ほとんどの人は、ホッキョクグマを見たことがあるだろう。あの真っ白で、フワッフワで、顔が優しくて可愛らしいクマ。赤ちゃんは「ぬいぐるみ??」と勘違いするほど可愛い。

しかし人間を容赦なく襲い、餓死しそうになると共食いするという一面もある。急に怖い。


そんな、この世で最強のツンデレ生物ホッキョクグマ。氷河期を生き抜くため、毛や脂肪が進化したそうだ。

毛が白く見え「白クマ」とも呼ばれるが、実は毛は透明。透明なので、太陽光が地肌まで届く。地肌は黒いため、効率的に熱を吸収して体が温まる。冷たい海で泳げるように脂肪は分厚い。

厳しい寒さに耐えられるよう進化し、温暖化で北極の氷が少なくなるとホッキョクグマの生存率は下がってしまう。

昔、動物写真家の岩合光昭さんの写真展へ足を運んだ。ネコをはじめ、パグやニホンザルなどの写真が飾られていた。中でも強く印象に残ったのは、ホッキョクグマがピンク色の花畑で寝っ転がっている写真だ。

まるで昼寝を満喫しているかのように、花畑でくつろいでいる。どこか優しそうで、楽しんでいるようにも見えた。


雪や氷に覆われた氷河期、ホッキョクグマは生きるのに必死だったろう。でも、フワッフワな赤ちゃんの子育てや、海中水泳など、少なからず何か楽しみを見出していたのではないか?とも思いを馳せる。

ホッキョクグマは姿を変え、南九州でも見かける。「白クマ」という大きめのカキ氷だ。果物で白クマの目や口を表現し、主に暑い時期に販売される。

私の故郷宮崎にも白クマがあり、コーヒーシロップを使った黒クマ、マンゴーたっぷりの黄クマなども生息している。大きくてほんのり甘く、果物満載で大好きだ。


氷河期でしんどかったホッキョクグマも、何の因果かこうして暖かい地域でも生き延びている。

ホッキョクグマが天文館を歩いたら「わ!ぼくがカキ氷になってる!」と目をクリクリとして喜ぶかもしれない。いや、もしかすると肖像権で争う一面もあるかもしれない。


正社員になれなかった人生が、今に活きている

誰しも平等に時間は過ぎる。「あ!」と驚いた1秒も、涙を流した1秒も同じだ。

小さなことでもいい。人生は、楽しいの連続であってほしい。

辛いことを避け、面倒なことは他人に任せ、適当に生きたいわけではない。生きていれば、辛いことも悲しいこともある。

楽しい時間を過ごすにはお金も必要だから、宝くじでも当たらない限り、何かしら仕事は続ける。ただ、体調を崩すほど無理して辛いことは続けたくないし、責任ばかり押し付けられたくもない。

正社員になって働きボーナスをもらっていれば、もっと楽しい人生を送っていたかもしれない。

聴きたいCDは全部買って、値札を気にせずにランチして、たくさん旅行して、広いマンションに住んで、洋服を買いまくっていたかもしれない。


しかし、就職氷河期を生きてきたから、正社員になれなかったから、私の人生が暗かったわけではない。

どんな雇用形態だろうが真面目に働き、ブログでは長々と思いをつづってきた。今の仕事に、一見ダメ人間っぽいこれまでの職歴や経験がめちゃくちゃ活きている。

コツコツと続けてきたことがミステリー映画のように点と点でつながり、からまり、もがきながらも楽しんで働いている。


氷河期に生まれたホッキョクグマは、毎日吹雪でつらかったかもしれない。「かもしれない」のだ。当時の姿は誰にも分からない。今を生きるホッキョクグマの気持ちも分からない。

就職氷河期を生きる私が人生を楽しく過ごしているか、本当のところは私にしか分からないのだ。


より楽しい人生を送るために

答えを言うと、私は人生を楽しく過ごしている。10代より20代より、30代の今がいちばん楽しい。

たーーーのしーーーーーーーーーーー!!!!!!いえーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!これぐらい楽しい!!!

友達が少なかった学生時代は今考えてもつらい。同級生は勝手に「友達がいない」というレッテルを貼るし、高校生までネット社会にはいなかったので気持ちを吐き出す場所もなかった。

今はブログや見知らぬ誰かのコメント、noteならスキにも助けられている。わずかながら自由に使えるお金があるし、大好きなコーヒーに溺れながら自宅で仕事をしている。楽しくないわけがない。

誰かを「見返したい」などという気持ちは微塵もない。就職氷河期を恨む気もない。

度々サボっているのにボーナスをもらっていた上司を、今これを書きながら久々に思い出した。当時は鬼のようにムカついたが、今となれば知ったこっちゃない。何の興味もない。


今の、この先の私の人生が、より楽しくなるにはどうすればいいか?こっちのほうが何億倍も興味があるし、大事だ。人生のテストがあるなら「ここはテストに出ます!!」と叫ぶだろう。

夫が最近、焼き肉用のコンロを買った。毎週のようにお肉を買い、2人で焼き肉を楽しんでいる。やはり、今がいちばん楽しい。

夏に帰省したら喫茶店で白クマを頼んで可愛い顔を眺め、果物やほんのり甘い氷を味わいたい。かつて見たホッキョクグマのように、ピンク色の花畑の上で暮らし続けるのだ。

サポートしてくださった分は、4コマに必要な文房具(ペン・コピック等)やコーヒー代に使います。何より、noteを続けるモチベーションが急激に上がります。