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『春の雪』から「豊饒の海」なぞの結末を解説し、自決と文学の一体、三島由紀夫氏の魂にせまる

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⇧自決する日の朝、「十時半に」と編集者に指定した三島氏は、『天人五衰』二十六~三十章 140枚の原稿をメイドにことづけて、「楯の会」の制服に身をかため市ヶ谷に向かった。
わずか十分ほど遅れた編集者は、「お出かけになりましたが、これをお渡しするやうに、と・・・・・・」とこの原稿を受け取って、「何となく釈然としない気持を抱きながら、社に帰」ったという。【小島千加子『三島由紀夫と壇一雄』構想社、ちくま文庫
生きて帰らない、文学と決別する。その決意、周到な計画は、いくつかの偶然にも助けられて、完遂された。〈左上〉

その『天人五衰』なぞの結末。砂を噛むような大破局を、
ワーグナー「指輪<リング>」Der Ring des Nibelungen に重ねると、世紀の大団円、永遠の世界芸術、歓喜の天に駆け昇る英雄の勇姿があらわれる!と明らかにします。〈左下〉

その論理は、仏教哲学のアラヤ識にあり、第三巻『暁の寺』でアラヤ識はとして描かれます。〈中上〉
アラヤ識はまた「」として、「御立待<おたちまち>」の儀式(一巻五章)、月光姫から贈られた指輪(六章)、その指輪が学習院の寮で失われると、月光姫も亡くなり(三十、三十五章)、そのときアラヤ識、生れ変わりの理法がタイの王子から説かれて、全巻をつらぬくテーマとされます。〈中下〉

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⇧月が満ちて、新月として隠れる姿〈中下〉は「新月・満月カレンダー」。鎌倉.長谷の大仏が『春の雪』三十一章 に描かれて、初の映画化でも重いシーンを導きます(後述)。

そう、三島が描く美は、 優雅=禁=エロスかつ であり、
金閣=禁=美=死かつエロス とする『金閣寺』から「豊饒の海」へと三島が追究した美、優雅であり、
その美は『エロティシズム』、バタイユの哲学に基づきます。訳者の澁澤龍彦は三島の親しい友で、『暁の寺』の今西のモデルです。〈右〉

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⇧「金閣寺」第三章で描かれる、雪の金閣(平凡社「世界大百科事典」1972カラー図版「京都」の項)。右は、聖林寺 十一面観音(奈良体験)。

★1「豊饒の海」テーマは何か?

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第一巻『春の雪』のテーマは、菊の優雅、です。
主人公 清顕(きよあき)の美しさ、ひよわで浮薄な、責任感を欠いた(一章)、
とうてい英雄の物語とは程遠い性格は、
じつはその感情のままに生き、するどい感性によって美を感受する、
三島のテクニックなのです。『春の雪』は、責任感や強さとは無縁の、ただただ美、優雅を追究します。
このテクニックは『裸体と衣装』に拠る⇒記事《1》★6
その美、優雅とは何か?
優雅=禁=エロスかつ死    さっき見た、バタイユの哲学の世界です。
三島は言います。死処を選ぶことが、同時に、生の最上のよろこびを選ぶことになる愛は浄化と陶酔の極に達し、苦痛に充ちた自刃は、そのまま戦場における名誉の戦死と等しい
この確信にこそ、私の戦争体験があり、さらに又、あの「エロティシズムのニーチェ」ともいうべき哲学者ジョルジュ・バタイユへの共感があった。
【昭和41年に書かれた「二・二六事件と私」。河出文庫『英霊の声』の249頁】

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『金閣寺』からの三島文学は、このバタイユ哲学によって
美=禁=エロスかつ を描きます。⇒これも、記事《1》★7

★2 第二巻からの構成

第二巻『奔馬』は、一巻の「菊の優雅」から一転して
「刀」武士の魂をテーマとする、行動の文学である。三島は言う。
「刀」の主人公は行動し、テーマを破壊しつつ発展させる。
テーマの重さは、主人公の内面、でなく、置かれた状況と、彼が挑むべき対象によって示される。「刀」は破壊され、また発展し、彼の行動によって研ぎすまされて、純粋観念へと昇りつめる。【『裸体と衣装』71頁】
第二巻の展開、そのままです。その終局から、モノとカネに蝕まれた醜い欲が現れて、

第三巻『暁の寺』を、三島はこう話しています。
上層階級にカリカチュア(戯画) を置いといて、まわりの世界が崩れる、という事を書きたい。
【「対談 人間と文学」25頁、中村光夫と。全集は第40巻
また、三巻で説かれるアラヤ識の仏教哲学が、(⇒記事《)

第四巻『天人五衰』の、二つの鍵を提示します。
1.生れ変わり、輪廻転生の理論
2.自らの心の醜さ、モノとカネの欲をあさる生き方が、世界観に投影されて、社会・時代が醜く汚れ果てる

★3 なぞの結末が、一転、大ドンデン返し!歓喜の大団円へ

そして 1,2 つまり、輪廻転生、自らの心の汚さが投影された現代の日本が、
ともに大破局して、砂を噛むような謎の結末!となり、
その救済歓喜の大団円への、大ドンデン返しが、ワーグナー「指輪<リング>」でなされるのです。

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⇒イメージを一瞬でつかむには、YouTube動画。その論理は、note記事


令和の日本に平和と幸福を築く、三島先生のメッセージを解明したく存じます。続きをご覧頂き、コメント頂いたご意見、ご指摘の点から、三島文学を深めてゆく所存です。