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夏休みの箱庭

私は夏休みが好きだった。

宿題もこんもり出るし(自由研究をいきなりやれと言われても大多数の子供は困ると思う。事前に自由研究の書き方とか指南してくれれば良いのに。)すべてが良いことだけではなかったけど、学校という画一的な箱から解放されて、これから1ヶ月の自由時間に何をしようかといつも胸を踊らせていた。

いつも通りなら学校の中で授業を受けている時間が、自由に自分で組み立てることができる。真っ白な入道雲と青々とした空を見ながら、さて何をしようかな、とワクワクした。

                        *

友達を誘って、河川敷まで自転車を走らせた。高架下に自転車を停めて、暑さを遮りながら宿題の絵を描いた。ひと息ついて、近くのお店にアイスを買いに行き、お互いの好きな漫画の話をしながら河川敷に戻ってまた絵を描いた。

夕方になって、また続きをやろうねと別れたあと、ピンク色に染まった夕焼けを眺めながら家路に着いた。家では素麺が用意されていた。海苔をちぎって汁に入れて、つるつるすすりながら今日したことを皆に話した。

その夜、心霊特集のテレビがやっていて、怖いとわかってるのにこっそり見てしまった。なんで夏は心霊番組をやるんだろう。案の定すっかり怖くなってしまい、扇風機しか回ってない暑い夜なのに毛布を頭まですっぽり被って眠った。

また友達と河川敷に行った。昨日見た心霊番組の話をした。怖がりなのになんで見ちゃうんだろうね、なんて苦笑いしながら絵の続きを描いた。時間の流れが目に見えるようにゆっくりと入道雲が流れていく。

花火大会に行くことになった。浴衣を着ていこうと約束した。待ち合わせ場所に集まった時、それぞれの浴衣の柄を誉め合った。なるべく近くで見たいと張り切る友達に手を引かれ、人混みの中を切り分けて前へと進んでいく。打ち上げ場所の程近い場所まで来た。

真っ黒な夜空の中、目の前で爆発する花火は、それはそれは怖かった。ドーンと上がった大きな華が目の前に落ちてきそうだった。むせ返るような暑さと、人混みをかき分けた疲労感もあって、なんだか夢の中に浮かんでいるようだった。

市民プールにも行った。私も友達も泳ぐのが大好きだったので、ひたすらクロールで泳ぎ続けた。2時間程泳いで、そこそこ疲れてきたのでアイスを食べて別れた。家に帰ってゴロンと横になった。窓から青空が見える。目をつぶって耳を澄ますとミンミン蝉の声が聞こえてきた。

『今夜は盆踊りだ』

今度は浴衣は着なかった。Tシャツにハーフパンツ、ビーチサンダルを履いて行った。友達はその姿を見て笑っていた。色んな出店が出ていたので、気になるお店は片っ端から見て回った。

偶然気になっていた人とすれ違った。向こうは絶対に気づいてなかったと思うけど、こっちはハッキリわかった。

『浴衣で来ればよかったな』

お好み焼きもたこ焼きも食べなかった。ぐるぐる踊る人達をぼんやりと眺めていた。

また河川敷へと行った。今日で宿題の絵は完成できそうだった。ここまで頑張ったご褒美に今日はサーティワンのアイスクリームを買った。

入道雲と真っ青な空を眺めながら、もうそろそろ夏休みも終わりだね、と2人で言いながらアイスを食べた。

                          *

こうやってひと夏の思い出を切り取ってみたけど、やっていることは何も特別なことではなかった。

けれど、今振り返ってみると、どの思い出もすごくキラキラと輝いて見える。何気ない思い出一つ一つが、素敵な宝物のように『夏休みの箱庭』に収まっているように見えた。





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