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“病んだ”AIとのダイナミックな旅路 『タイタン』 #417

「シンギュラリティ」は起きるのか、起きないのか。

AIなどが、人間より賢くなるタイミングを指す「シンギュラリティ」について語られるとき、想定しているのは数十年程度ではないでしょうか。だから、「自分の仕事がなくなってしまうのかもしれない」と焦り、「AIにはできない仕事を、人間にしかできない仕事を」と煽られてしまう。

でも、本当に「シンギュラリティ」を迎えた世界では、「仕事」や「働く」という概念自体がなくなる。ついでにいうと、「上司」や「報連相」なんて言葉も消えてしまう。

仕事にあくせくしている人間にとってはありがたい世界ですが、当のAIにとってはどうなんだろう? そもそもAIにも「幸せ」や「やりがい」はあるんでしょうか?

野崎まどさんの小説『タイタン』は、いまから数百年後の世界が舞台です。人類は「仕事」から解放され、すべてのことはAIの「タイタン」がやってくれる。でも、その「タイタン」が不調に陥ってしまいます。

病んだ「タイタン」が動きを止めてしまったら? 人類が破滅する!?……というお話です。

ヒョンビン主演のドラマ「アルハンブラ宮殿の思い出」は、ARゲームを巡るサスペンスドラマなのですが、コンタクトレンズを着けることで目の前にゲーム世界が展開していきます。

でも『タイタン』は、そんな物理的なデバイスも必要なさそうなんです。「思った」だけで、AIが先回りして見せてくれるから。

“趣味”で心理学を学んでいた内匠博士は、ある日、拉致されるようにして北海道に連れて行かれます。そこで生まれて初めて「仕事」をすることになるのです。与えられたミッションは、「タイタン」のカウンセリング。

ムカつく上司に耐えたり、セクハラな同僚のコメントに怒ったり、「近代(=21世紀のこと!)の人々は、こんな不愉快にどうやって耐えていたのかしら?」なんて思う。

イヤミかい!!!

「タイタン」の物理的なサーバーは、北海道の摩周湖のそばにあります。なぜ、こんなところに?と思ったら、途中から「タイタン」と内匠博士のロードストーリーになるからです。誠にダイナミックな展開でした。

内匠博士のもうひとつの趣味はフィルムカメラで撮影することなんですが、すべてがデジタルな時代に超アナログなものが生き残っているということは。過渡期に「なくなる仕事」として挙げられているものも、数百年後には“趣味”として復活しているのかもしれません。

博士との対話やアラスカの住民との交流を通して、「タイタン」は自分にとっての「仕事」の意味を問うていきます。

同時に。

わたしにとっての「仕事」や、「生きること」の意味も考えさせられました。すべての決めごとをAIがやってくれるようになったら、なにかを所有することにも意味がなくなりますし、なにかに所属するという概念もなくなります。

仕事しなくていいなんて、ハッピーな世界だと思ったけど、“ラク”=ハッピーとは違うかも。

「タイタン」が病んだ原因に、「あ!!!」となり、自分がすっかり騙されていたことに気づきました。「シンギュラリティ」を迎える日。その時、わたしはこの世にいないと思われますが。それでも。

地球に存在するものすべてにとっての、安寧を願わずにはいられない。


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