リーダーよ、理想を語れ 映画「王の涙 イ・サンの決断」 #559
「そなたたちの言葉は浅い」
ドキリとする言葉で重臣たちをはねのけたのは、正祖(チョンジョ)です。500年以上も続いた朝鮮王朝の中で、名君と呼ばれている人物。
おじいちゃんの“英祖”、お父さんの“思悼世子”、そして“正祖=イ・サン”は、何度もドラマ化されるほどドラマチックな関係でした。それだけ政治的に不安定だった、ともいえるのかもしれません。
“英祖”とその息子“思悼世子”の確執は、ソン・ガンホ×ユ・アインで映画化されています。
“英祖”と“正祖”の物語で有名なのは、やっぱりドラマの「イ・サン」かな。イ・ソジンの堂々とした「世孫(皇太子)」姿と、イ・スンジェ演じる英明さと孤独を兼ね備えた王が印象的でした。幼い頃の“イ・サン”を支え、生涯の思い人となる“ソンヨン”を演じたハン・ジミンの儚さも、ジーーーーーーンとくるんです。
こんな大ヒットドラマがあるのに、まだまだやってしまうのかと驚いたのが、映画「王の涙 イ・サンの決断」でした。“英祖”の跡を継いで王となったものの、クーデターの危険は去らず。王の首を狙う暗殺者と、“イ・サン”の一日を追った映画です。
<あらすじ>
宮廷内の最大派閥である老論派の陰謀により、幼い時に父を殺され、25歳で祖父から王位を継いだイ・サンは、陰謀渦巻く宮廷内で常に命の危険を感じていた。それでも、理想の治世を実現しようと老論派の排斥に動き出す。そんな彼に対して、老論派は当代一と言われる刺客ウルスを使い、暗殺を企てる。
監督は、ドラマ「ベートーベンウィルス」の演出を担当したイ・ジェギュ。イ・ソジンら実力派の俳優を集めて、イタリア映画のリメイク作品「完璧な他人」も撮っています。
ドラマ出身ということで、評論家たちからは渋い声も聞こえたそうですが、わたしとしてはキャスティングが残念だった映画なんですよね。
“正祖=イ・サン”は、おじいちゃんの“英祖”の出自や息子との確執、派閥争いなどがあって、子どもの頃から命を狙われることが何度もあったそう。その黒幕は“英祖”の妻(大妃)であり、ドラマではキム・ヨジンが演じていました。もー、その迫力といったら、震え上がるほどです。
(画像はniftyより)
この映画で大妃を演じたハン・ジミンもすばらしい俳優ですが、どうしても“ソンヨン”のイメージが強いんです。よりによって政敵の役をやるって、勇気ある選択だったのでは。ただし、彼女の美しさを強調するシーンはいっぱい用意されています。
(画像はKMDbより)
ヒョンビンの除隊後復帰作として注目されたせいか、オープニングは筋トレをする王の“筋肉”を、なめるようにカメラが追いかけます……。笑
(画像はナムウィキより)
“イ・サン”は本の虫とも知られていて、身分が低くても優秀で熱意ある者を登用しようと改革を進めた王です。いわば究極の理想主義者で、かつ、実践者でもあったといえると思います。
そんな王が、「身分の卑しい者たちと議論をするなんて……」と眉をひそめる重心たちに言い放つのです。
「そなたたちの言葉は浅い」
理想がなくては政治は活きない。そして、理想を語る人の言葉に、人は動かされる。王の孤独と決意にしびれます。
現在、Amazonプライムで配信中です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?