「カフェ」という場があるからこそできる、さまざまなトライ 『ゆっくり、いそげ』 #363
英語の「Economics」に「経済」という訳語をあてたのは福沢諭吉といわれています。中国の古典を語源とする「経世済民」=「世の中を治め、人民の苦しみを救うこと」が元になっているそう。
でも、現在「ビジネス」という言葉に置き換えられる「経済」には、その辺りのことが吹っ飛んでいるように感じます。
いま話題のNetflixのドラマ「愛の不時着」に、こんなシーンがあります。北朝鮮の軍人を演じるヒョンビンが自ら冷麺の麺をつくったり、コーヒー豆を煎って淹れたりするのです。いわば「スローな生活」ですね。こうした生活も人気の原因になっているのだとか。
「経済」活動をしてお金を稼がないとご飯は食べられない。でも忙しく効率よく稼ぐ暮らしは人を消耗させてしまう。
中間をとることはできないのだろうか。
「ゆっくり、いそげ」の精神でお店を経営しているのが影山知明さんです。著書の『ゆっくり、いそげ カフェからはじめる人を手段化しない経済』には、東京の西国分寺にあるクルミドコーヒーの経営方針が綴られています。
影山さんについてまったく知らなかったのですが、東大学法学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て起業と、バリバリのビジネスマンやん!という方でした。
「お金を稼ぐ」方法についてよく知る人物だからこそ、価値を他の形で稼いで還す発想ができるのかもしれません。
・日本産クルミを守るためのクルミ収穫ツアー
・利子をコーヒーで払うクルミド債
・若手音楽家の発表の場であるコンサート
・インディペンデント出版社
カフェ主催のこれらイベントは、お客さまとのつながりによって生まれたもの。どちらかがどちらかを一方的に「利用する」のではなく、対等な立場で「支援し合う」関係です。
こうしたシステムを作るにあたって述べられている、「消費者的な人格と受贈者的な人格、お客さまにあるふたつのスイッチのどちらを押しますか?」という考え方がおもしろかったです。
消費者的な人格:同じだけ支払うなら、できるだけ多くを手に入れたい
受贈者的な人格:いいものもらっちゃったから、何かで返したいな
ポイントカードや地域通貨がうまくいかない理由は、「消費者的な人格」を刺激するからだそうです。ポイントカードやクーポンは、まさに「多く受け取る」ためのものですものね。この考え方は、会社の仕事にも当てはめられそうに思います。
人を手段にしない経済は、「Economics」の語源である「経世済民」に近づくことができるのか。そして「世の中を治め、人民の苦しみを救うこと」ができるのか。
「カフェ」という場があるからこそできる、さまざまなトライ。春になったら行ってみたいと思っていたら、この事態で先送りになってしまった。いつか行けますように。
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