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疑似家族が共に生きるための“愛” 映画「万引き家族」 #622

「家族」という名で結ばれる、その“糸”は、血なのでしょうか。それともお金なのでしょうか。

是枝裕和監督の「万引き家族」は、そんな「家族」の結びつきについて、深く考えさせられる映画でした。第71回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、この年の日本アカデミー賞で、最優秀作品賞などを総なめにした映画です。

<あらすじ>
高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が転がり込んで暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である初枝の年金だ。足りない生活品は万引きで賄っていた。ある冬の日、治が近所の団地の廊下で震えていた幼い女の子を家に連れ帰り、信代が娘として育てることに。

実際にあった、親の死亡届を出さずに年金を不正に貰い続けていた家族をモチーフに、10年近くかけて構想を練ったそう。児童虐待や社会保障など、公的な援助の限界が感じられるストーリーになっています。

父のリリー・フランキーさん、その母である樹木希林さん、妻の安藤サクラさんの、ド底辺なのに飄々と暮らしている雰囲気がとてもいいんですよね。「仲良し家族」そのものな光景なのですが、実際に血のつながりはないことが明らかになっていきます。

タイトルにもなっている“万引き”という犯罪によって、家族の絆がつくられているとみることもできますが、家族の形そのものが“万引き”によってできあがっているようにも感じられる。だからよけいに考えてしまう。

家族を、家族たらしめるものはなんなんだろう?

家族そろっての海水浴で、仲良く遊ぶみんなを眺めている初枝が、何かをつぶやくシーンがあります。

万引き家族

(画像は映画.comより)

「ありがとうございました」

そう読み取れるセリフは、希林さんのアドリブだったのだそう。

離婚して、ひとりで生きてきた老女にとって、一緒に笑える誰かがいてくれることは、幸せなことだったのかもしれない。たとえそれが「ウソの家族」だったとしても。

是枝監督はカンヌ国際映画祭の公式記者会見で、初枝を演じた樹木希林さんについて語り、希林さんの声にならないひと言が、映画の方向性を決めたと明かしています。

「僕はやっぱり自分がつくるものを、希林さんに出ていただけるものにするために努力をします。努力をしないで甘いまま彼女の前に立つと見透かされるので、希林さんの前で恥ずかしくない監督になりたいと思うんですね。そういう役者がいることはすごい大切なことで、監督にとって」

「家族」をテーマに映画を撮り続けてきた監督がたどり着いた、ひとつの家族。それぞれを結んでいる“糸”の脆さと、儚さに震えてしまうのだけれど。

そこには確かに“愛”がありました。利己的だけど、誰かを傷つけるためではなく、共に生きるための“愛”。それだけは本物だったのだと思います。


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