妄想術

正解は落ちていない。もっと自由でいいのだ 『面白い!を生み出す妄想術 だから僕は、ググらない。』 #237

「妄想」という言葉には、よいイメージも悪いイメージもあるように思います。

しずかちゃんがお風呂に入っているとか?

宝くじで10億円当たったとか?

ジョニー・デップと映画に出るとか?

考え始めると楽しくなって止められない。そんな「妄想」を広辞苑で引いてみると。

①[仏教用語]みだりなおもい。正しくない想念。
②[心理学用語]根拠のない主観的な想像や信念。

とのこと。しずかちゃんがお風呂に入っているところを思い浮かべるのは「空想」、窓からのぞいて「しーずかちゃん!」と声をかけるところを思い浮かべるのは「妄想」なのかもしれません。

頭の中でしているだけなら楽しい一人遊びです。実際にやったら犯罪や。

小学生の頃、むさぼるように読んでいた新井素子さんの本に『……絶句』という小説があります。

19歳のSF作家志望の女の子・もとちゃんが書いていた小説の登場人物たちが実体化してしまい、おまけに自分が書いたキャラクターと恋に落ちてしまう……というSFです。で、この小説の後半で、キャラクターがひとりずつ消えてしまうんです。物語の中に戻ったというわけではなく、存在がフッと消えてしまう。

理由は、とある薬を浴びてしまった主人公のもとちゃんにありました。

もとちゃんは子どもの頃から一人遊びとして「妄想」を楽しんでいたんです。それを文字に起こすことで小説にしようとしていた。薬のせいで「妄想」をしなくなり、だんだんとキャラクターを忘れてしまったことが原因だったのです。

「想像」を膨らませて「空想」を広げて「妄想」することは、「創造」の原点なんだなーと、子ども心に強く感じたお話でした。

ですがオトナになると、現実に忙しくて「妄想」なんてしているヒマがありません。だってとにかく時間通りに会社に行かないといけないし、クライアントにメールを送らないといけないし、アウトプットを前提としてインプットをしないといけないらしいし、ウェイウェイしなきゃいけないし。

それでは人生の楽しみを半分失ってしまうのでは。

浅生鴨さんの『面白い!を生み出す妄想術 だから僕は、ググらない。』を読んで、久しぶりに「妄想」の楽しみを思い出しました。

タイトルは「ググらない」ですが、かもさん自身はものすごく検索する方だそうです。ただ、検索する前にやっていることがある。

それが「妄想」です。

「妄想」は検索では見つけられず、でも検索で手に入る情報よりも、もっと広がりや奥行きのある情報を手に入れられる。

妄想からアイデアを考え始める「妄想クリエイティブ」という、かもさんの考え方が紹介されています。

日本の教育システムは「正解」を探す詰め込み教育で、思考重視ではないとよく指摘されています。世の中には「正解」のない問題の方が多いのに。

学校を卒業して何年も経った今でも、問題を出されると、正解を探そうとしてしまいます。「なんか案を出して」と言われると、ないはずの正解を追いかけてしまう。

でも、どこにも正解は落ちていないのだし、いくら探したって、どうせ見つからないのだから、不安になる必要はない。
思いつく限りの妄想をどんどん並べていればいいのだ。

それでいいのだ。

バカボンのパパのような話を、今度の新人研修でやってみようかなと計画中です。使うのは本で紹介されていた「九マス」と「接続詞」です。

「九マス」とは…
縦に二本、横に二本の線を引いて、九マスの枠を作ります。
中心になにか言葉を書いて、そこから連想する言葉で埋めていく。
九個埋まったら、二つの単語を選んでつながりを考えてみる。
「接続詞」とは…
まず短い文章を書く。
そこに順接と逆説の接続詞をつないで話を広げていく。

新人研修を担当するようになって以来、毎年「正解のない課題」に取り組んでもらっています。去年やったのは、タイトル・著者・出版社をすべて隠し、おすすめコメントが書かれた帯を作成する「帯1グランプリ」です。

「正解のない課題」にとまどう人、サラッとやってできた気になる人、いつまでたっても完成の踏ん切りがつかない人、いろんなタイプがいて、見ていておもしろかったです。

もちろん、課題に正解がないように、提出スピードも関係がない。締め切りという約束を守れるかどうかはみていますが、そもそも採点という形のジャッジをしないことにしています。

注目しているのは課題に取り組む姿勢です。自分なりの工夫をこめられるか。本への愛を言語化できるか。これは、仕事への姿勢につながります。今年は「妄想」でやってみようかと。

だって、「妄想」は「考える」の第一歩だから。

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