記憶をなくした兄と、記憶が曖昧な弟。狂っているのは誰か 映画「記憶の夜」 #586
Netflixと相性の良いコンテンツってどんなものなんでしょう。ネトフリ.comというサイトで人気ランキングを見てみました。
まずは本家のアメリカ。やっぱりアメリカ製が強いようです。
日本ではアニメ率高し。そこに韓国ドラマが4本も入っているところがすごいな。
その韓国では、韓国製のドラマと映画が席巻。「ブリジャートン家」が6位に食い込んでいるのは、「貴族の恋と対立」というフォーマットが韓国ドラマと同じなせいかも。
（ランキングは2月17日のもの。https://netofuli.com/ranking-top10/）
サブスクリプションというサービスの特性上、ユーザーとしては「観なきゃ損損！」と思ってしまいます。アニメやドラマは回数が多い分、見始めると止めにくいのかもしれません。
わたしの「おすすめ」画面に表示されるのは、韓国映画とドラマばかり。なのでズルズルと、次から次へと「Netflixオリジナル」を観てしまいます。そして、また当たりの映画を引いてしまいました。
「椿の花咲く頃」のカン・ハヌルと、「悪人伝」のキム・ムヨルが兄弟役を演じた「記憶の夜」。絶対ネタバレできない系のミステリーです。
＜あらすじ＞
1997年、新居に引っ越してきた一家の次男ジンソクの憧れは、秀才で運動神経も抜群な兄のユソク。ある夜、その兄が車で連れ去られてしまう。19日後にユソクは帰ってくるが、その間の記憶を全て失っていた。兄の様子がおかしいことに気づいたジンソクは、夜中に外出する兄を追い、衝撃的な事実を知ることに……。
次男のジンソクを演じるのが、カン・ハヌル。長男のユソクはキム・ムヨルが演じています。仲良し兄弟に隠された秘密に震え上がります。前半の展開がすごくいいんですよね。緊張感があって、謎が謎を呼び、疑いがどんどんと深まっていきます。
おすすめポイントは3つです。
ポイント1：ミステリー初心者にぴったり
ジンソクは二浪中（日本でいう一浪中）で心を病み、薬を服用しているんです。薬を飲むのを忘れると、ちょっと意識が飛んでしまうよう。だから「兄の様子がおかしい」と訴えが現実なのか幻想なのか、だんだんと分からなくなっていきます（というように仕込まれている）。
映画を観る際、ぜひ読んでおいてほしい本があります。新井久幸さんの『書きたい人のためのミステリ入門』です。
この本の中で、ミステリには「三種の神器」が必要と紹介されています。
・謎
・伏線
・論理的解決
「三種の神器」はもちろん映画にも当てはめることができ、「記憶の夜」はキレイにはまるのです。だからミステリー初心者にぴったりな作品といえます。
後半の謎解き部分は説明しすぎな感もありつつ、これだけ見事な伏線回収を見せられると、2回目の再生ボタンを押してしまう……。
ポイント2：国家の破綻と家族愛
次なるポイントは、この映画の舞台が「1997年」だということです。映画の冒頭で、“いま”が1997年の5月であることがハッキリと示されます。この数か月後、韓国はアジア通貨危機の波に飲み込まれ、IMFに支援を仰ぐことになるのです。
IMF危機の時代を舞台にした物語は、どれも「完全なる悪者」がいないんですよね。どんな悲劇も「IMFだから」ということになってしまう。ただ、それでは割り切れないのが感情というもの。悲劇には、憎む相手が必要なのだなとやりきれない気持ちになりました。
兄が失った記憶と、弟のあいまいな記憶の間に浮き上がってくるのは、家族への想いです。家族を犠牲にした人、家族を救うために自分を犠牲にした人、当時の厳しい状況を思わせる、どんでん返しの連続です。
ポイント3：演技対決
カン・ハヌルのデビュー作で共演し、実は付き合いは長いと語るキム・ムヨル。ドラマ・映画・舞台にまんべんなく出演し、演技力を磨いたカン・ハヌルに対し、キム・ムヨルはミュージカル俳優として長く活動してきた俳優です。ふたりの演技が爆発する瞬間が、一番の見どころ。願わくば、もう少し年齢が設定と近ければよかった……。
チャン・ハンジュン監督の作品は、これまで日本で公開されたものがないようで、とても残念です。今回の映画では脚本も担当。EPIK HIGHというヒップホップユニットの「開花」という歌にインスピレーションを得て、脚本を書いたそう。
コラボミュージックビデオも作っています。和訳した歌詞がこちら。
覚えてる？
楽しかった瞬間が 塵になって積もっていくね
そよ風 ひとつにも 散ってしまいそうで
怖くなりますね
はい。カン・ハヌルとキム・ムヨルの演技対決に怖くなりましたよ。
狂っているのは、記憶をなくした兄なのか。それとも、心を病んだ弟なのか。いやいや、家族への想いと経済が天秤にかけられてしまう社会でしょ。
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