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日本の国民食に一家言あり 『アンソロジー カレーライス!!』 #253

韓国に留学していた時、下宿生活を送っていました。いまは日本のようなひとり部屋の「マンション」が増え、ほとんどなくなってしまった「下宿」。6畳ほどの個室にベッド・デスク・テレビなどがあり、朝ご飯と夜ご飯がつきます。当時わたしがいた下宿では、10人ほどの下宿生はみんな韓国人。留学生はわたしだけでした。

そのため下宿のアジュンマ(女主人)は、それはもう心からわたしのことを気遣ってくれて、辛いものばかりの食生活に胃腸が疲れてきた頃は、特別メニューを作ってくれました。

アジュンマが待っていた食堂のテーブルには、ご飯にうす黄色い液体のかかったお皿が並んでいました。

これは……ジャガイモ丼?

平たく盛られたご飯の上にジャガイモらしき姿が見えるのですが、「なに」と判断できるものがない。

ナゾのメニューの正体は「カレーライス」でした。

あれだけスパイシーでガツンと赤い韓国料理にやられてしまったというのに「カレー」かよ!と思ったのですが、韓国で「カレー」と呼ぶ食べ物は「お子ちゃまカレー」なんです。

スパイスの香りなんてナッシングな液体をつつきながら、「カレー」は普通に辛い方が好きだなーと実感した出来事でした。

日本の国民食ともいえる「カレーライス」。辛さのレベルはもちろん、具材、食べ方などなどは、家庭によって違うことが分かる一冊が『アンソロジー カレーライス!!』です。

カレーだらけのエッセイ33篇のアンソロジー。読んでいるうちにカレーの匂いがしてきます。本のページもカレー色!

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執筆陣も豪華です。

<執筆者>
阿川佐和子、阿川弘之、安西水丸、池波正太郎、伊集院静、泉麻人、伊丹十三、五木寛之、井上ひさし、井上靖、色川武大、内田百けん、内館牧子、小津安二郎、尾辻克彦、神吉拓郎、北杜夫、久住昌之、獅子文六、東海林さだお、滝田ゆう、寺山修司、中島らも、林真理子、藤原新也、古山高麗雄、町田康、向田邦子、村松友視、山口瞳、吉本隆明、よしもとばなな、吉行淳之介

どなたもカレーに関して一家言あり、強い思い入れがあり、子どもの頃の思い出がある。

中でも、寺山修司とカレーという組み合わせが意外で、最初に読んだのはこれでした。

曰く、ライスカレーとラーメンと餃子は大衆食「三種の神器」なのだとか。ラジオ番組に寄せられたサラリーマンの声を紹介しています。

「どんなに会社で面白くないことがあっても、路地を曲ってアパートの方からプーンと、うちのかあちゃんのライスカレーの匂いが漂ってくるともう何もかも忘れちゃってね。ああ、俺にはホームがあるなってことをシミジミと感じましたね」

カレーを作っているのが「かあちゃん」とは限らなくなった現代でも、この感覚は分かる気がします。

そして、ふと思いました。

「カレーライス」と「ライスカレー」の違いって?

ハウス食品のホームページには、「一般的には長くライスカレーが主流だったよう」と書かれています。確かに本でも寺山や小津安二郎は「ライスカレー」、内館牧子やよしもとばななは「カレーライス」と表記しています。

池波正太郎も、

「カレーライス」とよぶよりは、むしろ「ライスカレー」とよびたい。

と書いています。戦前の東京の下町ではそう呼んでいたそう。

ルーがご飯の上にのっているのか、別添えかなど、説はいろいろあるようですが、シンプルな答えが向田邦子と山口瞳のエッセイにありました。

カレーライス:お金を払って食堂で食べるもの
ライスカレー:自分の家で食べるもの

んん?

では、下宿のまかないとして出る「カレー」と「ライス」はなんと呼べばよかったのかしら?


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