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夏休みの別荘で起きた密室殺人 『屍人荘の殺人』 #582

「あ、だまされた!」

ミステリを読んでいて、気持ちよくだまされていたことに気づいた時の快感。わたしは快感なんですが、中には「チクショー!」と思う人もいるかもしれないし、「チクショー!」と思ってしまう小説もありますよね。

そんなミステリ小説の「解体新書」といえるのが、新井久幸さんの『書きたい人のためのミステリ入門』です。

これを読んで以来、久しぶりにミステリが読みたくなりました。最初に手に入ったのが、今村昌弘さんの『屍人荘の殺人』。「このミステリーがすごい!2018」などなどの第1位を獲得し、「第15回本屋大賞」でも第3位に選ばれています。

<あらすじ>
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し、紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。一夜が明け、部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される……。

「想像しえなかった事態」とは、「ゾンビ」の発生です……。「紫湛荘」って「死人荘」のもじりだと思っていたのに、「そっちかー!!!」となりました。ホラーとか、ゾンビとか苦手なんですが、小説なので、そこまでグロい展開にはなりません。「ンシャオゥゥゥー」と蠢いてはいますけどね。

『書きたい人のためのミステリ入門』で『屍人荘の殺人』は、「クローズド・サークル」の例として挙げられています。別荘がゾンビに囲まれてしまい、外に出ることは不可能。たぶん外から別荘内に侵入することも不可能。おまけに、鍵のかかった個室で部員が殺されていたのです。

犯人は、誰だ!? そして、どうやって殺したのか!?

フーダニット(犯人は誰か)と、ハウダニット(どうして・どうやって)が楽しめる小説です。おまけに、探偵がふたりも登場するんです。ふたりといっても、名探偵+助手、くらいの差がありますが。

なぜ、この関係なのか。なぜ、ゾンビなのか。

『書きたい人のためのミステリ入門』を読んでからこのミステリを読むと、なんだかいろいろ納得してしまうんです。

新井久幸さんは本の中で、「謎の構築は富士山のように」と説明されています。

叙述トリックが最も効果的に機能するのは、予期していないところで、「まさか、ここにネタがあったとは!」と、突然の驚きが降ってきたときだ。
「どうせ何か仕込んであるんでしょ」と、警戒心バリバリで読まれてしまったら、どんなに巧妙に仕組まれたトリックでも、そう簡単には騙されてくれない。

はい、その通り! 警戒して、深読みしすぎて、「そっちかー!!!」となりました。

あまりにもスカッとだまされたので、いまは一コマ進んでエラリー・クイーンの『エジプト十字架の謎』を読んでいます。こちらは「論理的な解決」が鮮やかという例でした。

ああ、沼にはまる……。


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