ダウントンアビー

絢爛豪華な世界の生存競争 映画「ダウントン・アビー」 #190

人気マンガ原作の実写映画がモロモロつっこまれているそうです。過去作もマンガも未見なので、なんも言えないですが。

小説やマンガなど、“原作”ありの作品は、原作ファンを満足させつつ、新しいファンを作り出さなくてはいけないわけです。これはかなり難しいミッションだろうなと想像します。

20世紀前半の英国貴族一家と使用人たちの生活を描いたイギリスの人気ドラマ「ダウントン・アビー」も、この度、初めて映画化されました。

イギリスのドラマは1シーズンの話数を少なくし、その分、じっくりと時間をかけて質を上げるように制作するのだそうです。そのおかげか、「ダウントン・アビー」はゴールデングローブ賞やエミー賞を受賞。2010年から2015年まで全6シーズンが放送され、わたしもかぶりつきで見ておりました。

とにかくセットも衣裳もゴージャス! 特にファッションに興味のある方におすすめしたいドラマです。

「ダウントン・アビー」とは、ヨークシャーのダウントン村にあるカントリー・ハウスの名前です。荘厳で重厚なお城に暮らす伯爵一家と使用人たちの物語なので、とにかく登場人物が多い群像劇なんですよね。

“主人と使用人”という関係は、もちろん今日の格差社会にも通じるテーマです。でも、ドラマの日本語版サブタイトルとなっている「華麗なる英国貴族の館」という言葉からイメージするよりも、もっと現代的で普遍的。

貴族なりの悩みを描きつつ、使用人同士の恋や足の引っ張り合い、主人である貴族一家との信頼関係といった“人間ドラマ”がみどころなんです。主な登場人物は映画にもすべて出演し、ジュリアン・フェローズが脚本を、マイケル・エングラーが監督をと、ドラマ版をそのまま引き継いでいます。

映画の冒頭、料理人のパットモアさんが人物紹介をしてくれます。それだけでも大筋は把握できると思いますが、どんなキャラクターなのか、どういう関係性があるのかを知っておいた方が、より楽しめるのではないかと感じました。せめてシーズン1だけでも予習しておく方がいいと思います。1話の平均が50分×7話。たったの350分!!!

こちらがシーズン1の人物相関図。(公式サイトより)

ダウントンアビー1


映画では少し人が入れ替わりつつ、さらに倍!って感じ。(公式サイトより)

ダウントンアビー2

ドラマ版のシーズン1第1話は、タイタニック号沈没事故の知らせが「電報」で届くシーンから始まります。一方の映画は、英国国王夫妻の訪問を知らせる「郵便」からスタート。こうした、ドラマファンを喜ばせる仕掛けがたくさん盛り込まれていました。

350分の投資の価値ありです。


クラシック音楽がテーマのマンガ『のだめカンタービレ』で、試験勉強を手伝おうとした千秋先輩にのだめが尋ねるシーンがあります。

「貴族って、なんで働かなくて生活できるんですか?」

毎日毎日、音楽を聴いて、舞踊会があって、おしゃべりして、乗馬して、散歩して……。そんな風にのだめが感じたのも当然。ダウントン・アビーのクローリー一家もそんな生活をしています。そして、「この生活に持続性はあるのか?」という長女メアリーの疑問が、この映画のテーマになっています。

ため息がでるような豪華な館ですが、維持費も相当かかります。晩餐会やパレードの準備に追われる中、メアリーは確信するのです。

こんな生活、もう無理。

ダウントン・アビーは、たとえるなら地方の同族企業のようなもの。貴族はその地で農地や労働を提供しています。とはいえ経営は苦しく、ドラマ版では投資に失敗した父のグランサム伯爵が破産の危機に陥り、同じように悩んでいたことがありました。

屋敷を手放せば楽になれる。こじんまりでもいいから、地に足の付いた生活がしたい。でも、そちらを選べば、領地にいる人々=同族企業に勤める人々は働く場を失って失業することになる。

個を優先するのか。経営者としての責任を全うするのか。

映画のサブタイトルである「We've been expecting you.」は、貴族、使用人、異なるアイデンティティ、セクシャリティに迷う登場人物たちそれぞれに投げかけられた問いです。そしてそれはそのまま、観客への問いにもなっているように感じました。

ドラマ版を350分も観るより、早く映画が観たい!という方は、「映画『ダウントン・アビー』約10分でおさらいできる特別映像」をどうぞ。

映画公開に続く形で、ヘンリー王子とメーガン妃の“独立宣言”があったので、よけいに複雑な心境になっちゃいました。イギリス王室の生活を彷彿させる「ダウントン・アビー」と、社会の底辺で生きる家族を描いた「家族を想うとき」。合わせて観るのがおすすめ。


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