ケイン

衝撃のラストに震える 『ケインとアベル』 #152

映画や小説のジャンルである「サーガ」とは、日本語だと「年代記」の訳語をあてられることが多いようです。

元々は中世の散文物語の総称で、アイスランドで成立したそう。ここから転じて、英雄伝説や武勇伝、冒険談、そして一家の歴史を系図のように描いたものも「サーガ」と呼ばれるようになりました。

昨日ご紹介したイギリスの作家ジェフリー・アーチャーは、「サーガ」とミステリー、そして短編を順番に執筆することで知られています。彼が最初に取り組んだ「サーガ」は『ケインとアベル』でした。

アーチャーは29歳の時に下院議員に立候補して当選。最年少議員として活動するも、北海油田の幽霊会社に行った投資で財産のすべてを失います。この時の経験を小説にしたのが『百万ドルをとり返せ!』です。

作家として活動するかたわら、政界に復帰し、爵位までもらいますが、スキャンダルで再び失脚。偽証罪で収監された時に“ナカ”で聞いた話を小説の素材にしたりと、なんというか、懲りないおじさんなんですよね。

『ケインとアベル』は、旧約聖書の『創世記』に登場する兄弟の物語「カインとアベル」をベースにしたストーリーです。といっても本当の兄弟ではなく、1906年の同じ日にポーランドとアメリカに生まれた2人の男の子が主人公。彼らの成長を交互に紹介し、やがて運命が交錯していく様子を描いています。

1912年のタイタニック号の沈没、
1914年に始まった第一次世界大戦、
1929年のウォール街大暴落による世界恐慌、
1939年から6年間に及ぶ第二次世界大戦。

こうした20世紀の現代史を背景に、2人の男がのし上がっていく小説です。アベルはホテル王に、ケインは銀行家として成功を納めるのですが、2人は事あるごとに対立。不倶戴天の敵となるのです。

特に、ポーランドの貧しい農家から裸一貫でアメリカに渡り、成功するアベルの過去は言葉を失うレベル。レストランのウェイターというみじめな境遇を抜け出すために賭けに出たシーンには、ハラハラしますよ。

そういえばニューヨークの法律事務所を舞台にしたドラマ「SUITS/スーツ」でも、ハーヴィーは下積み時代にメッセンジャーボーイをしていたという話がありました。人に使われる立場からどうやって“サードドア”を見つけるのかは、サーガの起点になるのでしょう。

事業に成功し、ようやく故郷のポーランドを訪ねたアベルは、母と再会します。ですが、貧しさと飢えにより、母は失明していて息子の顔を見分けることができません。せめて暖かい服と食べ物を買うようにと多額のお金を渡すアベル。でも、そのお金を母はどう使ったか? 涙涙のシーンです。

冷徹で合理的な銀行マンとして描かれるケインの素顔と、最後のどんでん返しに、「あー、この長い物語を読んでよかった!」となりました。小説を読む満足感がありますよ!



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