微笑みがえし

虚栄心は飼いならせるか? 女4人の壮絶バトル 『微笑みがえし』#17

虚栄心とは、自分を実質以上に見せようと、見栄を張りたがる心をいいます。誰しも「いい人」「優秀」といった、「それなりの人物」に見られたい欲求はあると思いますが、実際以上に盛るのには、注意が必要なようで。

昨日ご紹介した中村うさぎさんは、ご本人の虚栄心をコラムにした方。今日ご紹介するのは、フィクションです。

乃南アサという名前を聞いただけで、ドロドロした世界を感じる人もいるかもしれません。はい、正解です。 『微笑みがえし』は、仲良し同級生4人の女性による、超絶悶絶ドロドロストーリー。しかも、明るい笑顔の下でおこなわれるのですから、怖いです。

<あらすじ>
元アイドルの阿季子は結婚を機に芸能界を引退。テレビ復帰が決まったところで開いたホームパーティの後、無言電話や箱に詰まったガラスの破片が送られてくるなど、数々の嫌がらせを受けるようになります。

「誰が、何のために」というミステリーとしても読めますが、仲良し4人組の、表面的な微笑みと本心の対比がみどころだと思います。

中学時代は夢を語り合っていた友も、大人になってみれば微妙な格差が生じているもの。そう考えると、阿季子は嫉妬の対象になりやすい条件をそろえているんですよね。素直で、ポジティブで、華やかで、幸せな暮らしがあって。調べてみたら初版は1991年でした。いまなら「インフルエンサー」という属性を与えられそう。

SNSがなかった頃は、ネガティブな感情も半径50mほどの範囲ですみました。ネットの時代になって、キラキラしている人ばかり見ていると焦る気持ちも生まれてきます。だからといって、足を引っ張ってどうすると冷静な頭では思います。でも、本人にはそんな意識はきっとない。

面と向かってマウンティングされるのは気分がいいものではないですが、陰にこもった感情だって十分に恐ろしいです。フィクションと笑うことなかれ。自分の虚栄心や嫉妬を相対化して飼いならすなんて、凡人にできることではないのだと、この小説を読めば分かりますよ。


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