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すべての“道”は古本に通ず 『古本道入門』 #528

「いまは“技”を覚えるので精一杯でしょう。来年は“術”を使えるようになって、一緒に“道”を極めましょう」

合気道の道場に通い始めたころ、年内最後の稽古のときに師範が仰った言葉です。ピッカピカの白帯を締めた状態でお聞きした話は、いまもはっきりと覚えています。ああ、これから“道”を目指すのだと思ったこと。

“技”とは、もともと手で細枝を自在に操ることを指していたそう。多くの人の“技”が集まったものが“術”。そこからさらに精神性が加わり、行くべき方向を行くことが“道”です。

白帯の初心者のころは、「右足から歩いて、右手で相手の手首をつかんで、クルッと反転して……」と動きを“頭で考える”状態でした。ほとんど振り付けです。師範の言葉の通り、とにかく“技”を覚えるので精一杯。いつの間にか頭で考えなくても身体が動くようになり、相手の技にも反応できるようになる。

とはいえ、これこそ“道”だ!と思ったとたんに、“道”は消え失せてしまうもの。武道だけでなく、芸事だって、“道”を極める修行とは果てしないものなのだと思います。

そんな“道”に。

「古本」もあるなんて。

書評家の岡崎武志さんによる『古本道入門』は、本を買うたのしみ、売るよろこびを通した、“道”の極め方指南書です。

昨日ご紹介した「ブックオフ」の楽しみ方のほか、神保町ガイド、日本全国のおすすめ古本町などが紹介されています。

買うだけでなく、売る側になるための鉄則もあります。自前の店舗を構えるだけでなく、「一箱古本市」で、どう選書するかだって重要なポイント。古本達人のコラムも読み応えがあります。

一般人はあまり目にすることのない「書誌目録」というのがあって、古本屋さんはそのリストを見て仕入れる本を決めることもあるのだとか。そこに時々「個人の日記」が出るそうなんです。

白菜を買った、とか、子どもが熱を出した、とか、夫が転職した、といった事柄が記された、ホントの「日記」です。個人情報に触れない範囲でちょこっと紹介されているのですが、これがちょっと泣けます……。

人々の生き様が見えるんです。

こうした日記を買うのは、昔の物価や生活風景を調査している学者や作家だそうです。なるほど、あの小説も、あの映画も、もしかしたら誰かの日記から生まれたのかもしれない。

いまはただのピッカピカの白帯を締めた「本買い」だけれど、いつかわたしも“道”を極めることができるかしら。

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