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三月の星々、ふりかえり|140字小説

140字小説コンテスト「月々の星々」
三月のお題は「解」でした。
(追記)
no.2とno.3が予選通過し、no.3が二席を賜りました!ありがとうございます!

三月はなかなか創作の時間をとれず、月の後半にバタバタと作品を仕上げました。
推敲する暇がなかったのがかえって良かったのか、十一月のときのように気負わず書けた気がします。
ではふりかえり。

no.1
全ての星座が解体された。勝手に結びつけるなどけしからんと誰かが言い出したから。呟きが集まって大音声。星は星としてあるがまま!個の尊重!オンリーワン!そしてまた誰かが言う。表現の自由!星座はアート!文化を守れ!うんざりして誰かが呟く。もう全部消しちゃえば?
だから今、夜空は真っ黒。

小さな呟きが大炎上。強すぎる主張はうるさいのですが、そんなのどーでもいーよかんけーないよ、と打ち捨ててしまうことの方が失うものが多いのかもなぁ、などと。

no.2
どうしても衝動を抑えきれなかった。春だったから。
周囲を見回す。誰もいない。そっとマスクを外す。解放感。唇にふれる風。ひそむように身を屈める。白い小さな花群に鼻先を寄せる。呼吸。沈丁花。春。春の匂い。
澄んだ芳香を胸いっぱいにしまう。秘密めいた稚気。罪ではないのに、どきどきするの。

沈丁花が好きです。爽やかで、気づくと遠くから香っている。
道端の花の香りをかいだり、ツツジの花の蜜を吸ったり。そんなのなんだか気恥ずかしいしだれにも見られたくない。マスク生活が続いていると、もう素顔を晒すことすらどきどきする。家族以外の人の素顔を見てしまうと、悪いことをしてしまったような気分になります。なにも悪くないのに。

no.3
晴れた日に一人で行く墓参りが好きだ。霊園はしずかで、明るくて、解き放たれた線香の煙を見ていると心が空っぽになる。まっすぐ昇って風に揺れて、早世した従兄も、癌で死んだ父も、ここには入らないと拒む母も、やがてゆく私も、みんな連れてとけていく。桜が咲いたなら薄紅の、淡い空になるだろう。

子どものころ、お花見をかねて春に家族でお墓参りに行っていました。明るくて楽しくて、何も悲しくないお墓参りが好きでした。
大人になってからは電車とバスを乗り継いで一人で行って、線香が燃え尽きるまで、父の眠るお墓の前でただぼんやりしていました。やっぱり悲しくはなくて、ただしずかで、すっかり煙くさくなった髪や服が私は好きでした。

no.4
小学生の頃、授業で校庭の桜を描いた。私はピンクで花弁を塗って先生に褒められ、いつも一人ぼっちのあの子は白い絵の具で塗って「まちがっている」と怒られていた。光に透ける花弁は、確かに白くも見えるのに。理解されなかったあの色はまっすぐな本当だったなぁと、桜の季節になるといつも思い出す。

半分くらい実体験で、大人になった今も少しだけ後悔していることです。
白い桜なんて変なの、と私も思っていました。偏見や固定観念なんて言葉を知らなくても胸の内にそれらはあるんだな、名付けて選り分けないと私はそれらをコントロールできないんだな、と思い出すたび少し悔しい。

no.5
人語を解す獣の噂があった。妖の類かと僧侶が退治に出たら正体は小さな兎だった。「お坊様、なぜ私を殺すのですか」「理解できぬ獣だから」「なぜ殺すのを躊躇うのですか」「愛らしい兎だから」その刹那、兎は跳ね飛び僧の喉笛を噛み砕いた。「毛無しの醜い獣なら殺してよいとは。理解できぬ理屈です」

山月記と月の兎の話が混ざって全くちがう話になりました。禿げだから殺したわけではないです。兎から見たら人間なんて体毛の少ない奇妙なでかい怖い生き物でしょう。



以上、ふりかえりでした。
このふりかえりをしたいがために頑張って五作書き上げてる、みたいなところがあります。

皆さまの素晴らしき星々作品はこちらから!


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