見出し画像

七月の星々、ふりかえり|140字小説

140字小説コンテスト「月々の星々」
七月のお題は「放」でした。

放つ、放る、放置する。文字だけだとなんだか硬いのに、できあがったものはなんだか脆い? うすい? 薄氷がパキッと割れそうな? そんな仕上がりになりました。
ありがたいことにno.3が予選を通過。小手先の幻想より日々の実感か……。
ではふりかえり。

no.1
想いをしたためて放流する。どうか誰かに届きますように、と。ひろいひろい電子の海で、たくさんの誰かが、とりどりの言葉を、願いを、物語を、同じように波間へ流す。水平線の向こうから、届いたよぉ、と聞こえたら、私もぉ、と返したい。流れ着いた岸で、小さな貝殻のように、優しい人に拾われたい。

Twitterで140字小説を放流しはじめてもうじき二年になります。
だれにも届かなくてもいい、でもだれかに届いてくれたらいい。針のない釣り糸を垂らすようにのんびりとはじめた創作活動はいまや日々のかけがえのない癒しになっています。
でもきっと生活環境が変わればまた書かなくなったりするんだ。そして何年かしてまた息継ぎみたいにはじめたりするんだ。私にとってはそういうものです。

no.2
同級生が早世した。いつも背筋が凛と伸びていて、放課後、教室の窓から外を見ているだけで絵になる、そんな奴だった。友情と呼べるほどの思い出はない。ただ、遺影の中の微笑に、あの放課後の横顔が取り戻せない過去になったと思い知る。自分も死ねば全て流れ去る、それっぽっちの感傷が耐え難く軋む。


ずぅっと覚えている光景があります。高校生の頃、学校の渡り廊下から見た夕陽。たしか美術室のごみ箱を運んでいて、一人きりで見たありふれた夕陽。なんで特別なのかわからないまま忘れられない。完璧に美しかったんですよね。だれとも共有できないんですけど。

no.3
孤独は嫌だ、でも、放っておいてほしい。だから道端の小石になってみた。砂利は大勢いたけど、踏みつけられて悲しかった。次は野花になってみた。程よく風景に馴染めたけど、時々戯れに摘み取られた。結局人に戻ってみた。雑踏に紛れると安心した。大声で叫ぶと視線が絡んで、すぐ見ないふりをされた。

私は一人でのんびりすることが好きですが、決して誰とも関わらずにただ独りぼっちでいたいわけではありません。ただ、しずかにしていたいときに、しずかにしている自分のことを尊重してほしいな、と望みます。
同じ部屋でくつろぎながらそれぞれに好きなことをしている、くらいの距離感が心地良い。

no.4
町外れに苔むした電車が放置されている。前の町長が廃棄予定の車両を公園の遊具にしようと引き取って、けれど代替わりの悶着で忘れられてしまったらしい。錆びた車体に積もった枯葉。エモい図だな、とスマホのカメラを向けたら棲みついてたらしき狸の親子が窓から迷惑そうに僕を見た。あ、すんません。

書き始めたときから結末がかなり変化した作品。最初はもっとセンチメンタルな感じでした。いつものごとく。
でもなんか、廃墟やらに感じるノスタルジーとか人間の身勝手な感傷だよなという気がしてこんな終わり方に。

no.5
放置していたSNSに久々にログインした。かつては絞り出すように綴っていた呟きに私はもう共感できなくなっていて、それを悲しいとも思えなかった。抜け殻のアカウントを削除しようとして少し躊躇う。広すぎる宇宙で孤独な星から精一杯に手を伸ばしていたあの頃、私と違う私はきっと懸命に輝いていた。

自分の書いたもの大好きマンなので時々昔の作品を読み返すのですが、もうこれ今は書けないな……というか本当に私が書いたの? と思うことが多々あります。感動していたものに心ふるえなくなったり、関心の薄かったことに涙するようになったり。今書いているこの文章も、三年後くらいに読み返したら「だれこれ?」ってなると思います。




以上、ふりかえりでした。
皆さまの素晴らしき星々作品はこちらから!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?