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十一月の星々、ふりかえり|140字小説

140字小説コンテスト「月々の星々」
十一月のお題は「保」でした。

月々の星々に参加して一年が経ちました。昨年の十一月に初めて投稿したらまさかの一席をいただけて、そこから毎月せっせと投稿してはまとめ、投稿してはまとめ、とここまでやって参りました。
回を追うごとにコンテスト全体のレベルが上がっていて、最近はずっと予選通過どまりだったのですが、今回久しぶりに佳作をいただくことができました。ありがとうございます。
ではふりかえり。


no.1
宝箱の小石を磨くように思い出を整理する。くすんだ石に思いがけず手が止まり、原型を保てず風化した石は秋風にそっととかした。輝きを増した石は、もう目にするのが辛い。取りだし、息を吹きかけ、指でなぞり、またしまう。すっきりしたはずなのに何故か重たくなった宝箱に、新しい小石を住まわせる。

思い出の手触りは日向でぬくまった小石に似ている、と常々思っておりまして。他人にはただの小石でも、私にはさらさらとして心地よい。ポッケに入れておくお守りみたいな。

no.2
家の軒下で保護した仔猫は、何かにつけてとろくさい子だった。ご飯を食べるのも、遊ぶのも、とろとろと眠そうに目を細めてのんびりのんびり、何をしても日向ぼっこのようにのどかだった。十五年と少し、彼はそんな風にとろとろ生きて、もう、後はうんととろくさくていいよ、と家族の誰もが思っている。

no.2が佳作をいただきました。
とろくさい、という言葉に愛情をこめて。表情、しぐさ、声の調子なんかで、言葉あたたかみは全然違いますよね。小説は文字だけだけど、日向のにおいや抱っこしたぬくみや見守る眼差しを、感じとれたらいいなぁ。

no.3
平静を装った表情の裏で潮が満ちはじめていることなど貴方は知らないでしょう。寄せ来る波に、いつまで水際を保てるかわからないなんて。私の海は懸命にうねり、いまにも貴方の眼前にうちよせようとしています。別れの響きに耳をふさぐと海鳴りが聴こえました。遠雷とともにあふれる、ひとしずくの海。

ぐっと耳をふさぐと体の中の水音がして、ふさいであるはずなのに溢れるほどうるさい。人体の七割は水だと言いますが、よくはじけないものだなぁと思います。

no.4
保健室は瑠璃色だった。透明な青い光が床にゆらめいて、無数のネオンテトラが泳いでるみたいだった。真ん中の椅子に乗っかった先生が女王様みたいな顔でウインクして、青いセロファンを蛍光灯に貼りつけた。窓も扉も全部ふさいで、やっと呼吸ができる類の人間もいるのだ。仮初めの水底で人の皮を脱ぐ。

これ好き。「保健室は瑠璃色だった」というフレーズを使いたかっただけですが。イメージ優先で書きました。ネオンテトラみたいな光のゆらぎ。

no.5
失望保険に加入した。自分に、周囲に、失望するたびお金を貰える。がっかりして、うんざりして、くたびれ続けて。貯金残高が見たことない額になったころ、視界はぜんぶ灰色で、首をくくりそこねた後日、最高額の保険がおりた。友人にも家族にも失望したから独りぼっちで、愛は買えないものかと思った。

これも「失望保険」を使いたかっただけ。もう少し他に書きようがあった気もします。



あっという間の一年だったなぁ…。
Twitterのタイムラインでコンテストを見かけて初投稿。星々のおかげでどうにか私は創作と繋がっていられます。感謝。いつかどこかで私の書いたものを紙の本にまとめられたらいいなぁ、と夢を語っておきます。

以上、ふりかえりでした。
皆さまの素晴らしき星々作品はこちらから!


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