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子供の個性を活かすアプローチ:防災教育に取り入れた「多重知能」を使った質問カードでのワーク~

「この子達、こんな表情するんだ!」
数年前に女学院の高3学年を
担当していた時、
年度の最後の授業で初めて見た
生徒達の生き生きとした顔でした。

それは高3の3学期、
センター試験後の微妙な時期。
卒業をまじかに控え
進学を含めてどんな形にしろ
社会に出る”一歩手前”の
生徒達にために出来る
「最後の事は何だろう? 」

そう考え続けて
防災をテーマに取り上げる事に決め
当時流行りだった
アクティブラーニングを手法として
やってみる事にしました。

その試みは1度だけしか
出来ませんでしたが
アプローチの仕方で
生徒達がそれまでとは
全く違う表情を見せた事で
私の中に強烈な印象を残しました。

ここでは
・その生徒達が防災をテーマにした授業で
 どんなアプローチにより
 どういう反応を示したのか?
・学校や家庭で取り入れるとしたら
 どんな方法が考えられるか
などについてまとめてみました。

何かのお役に立てれば幸いです。

1 取り組み(教材)

「多重知能」という言葉をご存じですか?
私が初めて耳にしたのは
10年以上前、個人で英語教室を
開いていた時にさかのぼります。

ブリティッシュカウンシルの研修で聞いた
8つの知能の話は英語のレッスンの
事例として紹介されて印象に残りました。
ただ、それが家庭科の授業に使えるなどとは
その時は思ってもいませんでした。

この8つの知能とは
・論理数学的知能
・言語的知能
・空間的知能
・博物的(自然的)知能
・身体運動的知能
・音楽的知能
・対人(対外)的知能
・内省(内向)的知能
と言われています。

英語の研修では
人は様々な知能を合わせ持ち
得意な知能も違う場合があるから
それぞれの知能を活かせるような
工夫を取り入れたレッスンが望ましいと
説明を受けたように思います。

その後、
諸事情で英語教室は閉めましたが
この多重知能の事は
頭の片隅にずっと残っていました。

そして数年が経ち
この考え方と家庭科の実習を
結び付けてくれたのは
オランダ教育に精通した知人でした。

知人からオランダの学校行われている
・一つの大きなテーマを設定し
・そのテーマに基づいて
 8つの知能をベースにした
 テーマを拡大した質問を準備し
・生徒が自分が興味を持った質問を選び
・自分の好きな方法で質問の答えを探し
・その答えから更にテーマを探究していき
・最後にプレゼンテーションをするという
 内容のプログラムを聞いた時
「それ!やってみたい!!」と
胸が高鳴った事を
昨日の事のように思い出します。

それこそが生徒達が自主的に
取り組める”アクティブラーニングだ!”と
確信したからです。

ただ大きな問題がありました。
それはテーマに関連した
”質問カード”を使うという点です。
この手法での”問い”は
生徒達の持つ様々な知能への働きかけが
大切になるのでダイレクトな内容でなく
フィルターをかけた”問い”が必要となります。

そこで、その知り合いの方に
”質問”を作っていただく事にしました。
対象は女学院の高3学年3クラス150名弱。
1月に実施予定だったのでテーマは
防災という事でお願いしました。

実際に使用した質問は以下の通りです。




・自分の周りで「電気」で動くものは何だろう。
 停電で使えなくなるものは?
・非常事態発生後10分間。何をする?
リストを作り、優先順位を決めよう。
・自分が心地よく過ごすには、何が必要?
 もし、災害にあった時、
 心地よく過ごすアイテムは何?
・私の体を守る方法って
 どんな方法がある?
・今かばんの中に入っているものを
 調べてみよう。
 電気もガスも止まった。
 何か使えるものは入っているかな?
・災害時、女の子で得なことってなんだろう。
 女の子だから気を付けることって
 どんなことだろう。
・自分の部屋に備えておきたい
 防災グッズはどんなもの?
 絶対必要なものを3つあげよう。
 理由も一緒にね。
・電話が使えない!!
 そんな時、大事な人と連絡を取る方法知ってる?
・どんな時に、犯罪にあうのかな?
 犯罪が起こりやすい時間・場所・
 状況を調べてみよう。
・心が不安になったとき、
 自分が落ち着ける方法を知ってる?
 いくつか見つけておこう。

・住んでいる場所が損壊。
 避難所には、どんな
 タイミングで行く?
・避難命令が出た。自宅から持ち出せるのは
 バッグ一つ分。何を持って行く?
 女の子の必須アイテムは何?

これらは8つの知能をベースにしていて
授業時には各クラスの出席者を3~4人の
グループに分け、グループ毎に
12枚の質問カードにして配布しました。

このオランダ式の取り組みの面白さは
プレゼンテーションの仕方にもありました。

当時、生徒が調べた内容を発表する時は
紙にマーカーなどでまとめるのが中心
だったのですが、ここではすべて自由!

なので教材として準備した物は
下記のような文房具です。
・様々なサイズの普通紙
・マーカーと細字のカラーペンと色鉛筆
・糊や色紙、ホッチキスにハサミ
・セロテープ

最後は選んだ質問の答えをどう探し
さらに探求を深めるかの手段です。
これは学校にお願いして
(私は非常勤講師だったので、
授業は教室か家庭科室を利用していて
それまでは使った事がなかったのですが)
情報室のPCの利用許可を取り、
一人一台、PCを使えるようにしました。
(今ならタブレットやスマホなどを
利用できると思います。)

2 授業の目的

今思い出すと、
この授業を高3で実施するために…
・家庭科の主任を説得し
・質問カードを作っていただき
・一人一台使えるようにPC環境を整え
・生徒がプレゼンテーションをするための
 文房具類をそろえ
・パワーポイントで説明する資料を作り
・初めて使うPC室の使い方を習いと
本当に時間がかかりました。

でも、それだけの事をしても
どうしてもやってみたかった理由は
「何か一つでも高3の家庭科で
 心に残る事をして欲しかったから」

ほぼ全員が大学進学を考えていた
生徒達にとって
高3の受験期に週2時間の
家庭科を受けるのが負担だった事は
授業や実習を通して感じていました。

だからこそ最後に
家庭科の時間に
自分達自身に関わる事で
”卒業後に役に立つ事を
身につけて欲しい!”と
心から願ったのです。

もちろん、それ以外にも
・自分の状況に合った防災の見直し
・自主的な防災へ取り組みの促進
・防災についての知識や
 非常時の行動の見直し
・決められた時間内での
 情報の収集と整理
・自分らしい表現方法での
 プレゼンテーションの練習など
いろいろな目的もありました。
 
ただ、この取り組みは前例がなく
生徒達がどの程度取り組んでくれるかも
全く分からない状況で
不安と期待が入り混じった
複雑な気持ちで当日を迎える事になります。

3 生徒達の反応


当日、導入として
取り組みの内容と
プレゼンテーション用の
文房具類の場所の伝達をし
最初の時間は
・テーマの選択と探究
次の時間は
・グループでのプレゼンテーションという
タイムスケジュールを説明し
発表方法を自由形式にする事を
伝えた後は見守るだけでした。

当時の女学院の生徒達の行動は
とても合理的で
無駄な事はしない子ばかり。
なので、
紙だけは取りに来ましたが
こちらで用意した他の物は
ほぼ使おうとしませんでした。

その様子は仕方なく
やらされているように見え
「普通に授業をした方が良かったのかも」
と後悔し始めた時に
雰囲気が変わって来ました。

彼女達はPCのパワーポイントで
スライド資料を作っていたのです!
今なら驚く事ではないのですが、
当時はそんなまとめ方をするなんて
思ってもいませんでした。

手描きの資料の生徒もいましたが
パワーポイントを印刷した資料を
使う生徒も
モニター画面をそのまま使う生徒もいて
プレゼンテーションのスタイルは
様々でした。

中には体操を始めたり
歌を歌い始めたり…。
手持ちの私物を示しながら
プレゼンテーションをしたり
それは活気に満ちた時間に見えました。

「最後の最後に
こんな素敵な表情を見せてくれるなんて…」
感極まって
胸がいっぱいになった事を覚えています。

多分、この時に生徒達が
真剣に課題に取り組んでくれたのは
やがて離れ離れになる
クラスメートのためになる事だったから。

卒業後、大学進学などで
一人暮らしを始める子もいる状況の中で
防災はとても重要なテーマです。
だからこそ、どの質問を選んだとしても
同じ質問を選んだとしても
グループの中でシェアされる情報や
知識はやがて何かの形で
お互いにとって役に立つ事ばかり。

その背景があったからこそ
あたたかい雰囲気の中にも
それぞれが工夫を凝らした
プレゼンテーションが行われたのだろうと
思います。

その時に提出してもらった資料は
実習助手さんにスキャンしてもらい
今でも手元にあります。

女の子特有の丸みを帯びた字や
かわいいイラストが並び
選んだ質問もそれぞれで
とても個性的なまとめ方をしています。

資料は生徒達に了解を
もらっていないから
外には出せない資料だけど
私には一生の宝物となりました。

なぜなら
その年で女学院での講師を辞めたので
彼女達が最後の生徒となったからです。

4 まとめ

まさに「チャレンジ!」としか
言いようのなかった取り組みは
後の自分にとって大きな自信と
なりました。

この授業の時には時間配分が
どうなるか分からなかったので
提出してもらったのは
自作の資料のみでした。

オランダ式を行った感想や考察等の
生徒達自身からのフィードバックを
直接もらう事は出来ませんでしたが
彼女達のそれまで授業では
見せた事がなかった表情が
・ワーク自体の面白さや
・質問からの掘り下げの楽しさ
・自分らしいプレゼンスタイルの
心地良さなどを物語ってくれていたと
思います。(自画自賛ですが…。)

今回は家庭科の授業での
個人での防災をテーマにした
探求学習でしたが
展開次第ではいろいろな方法が
考えられるかと思います。

5 学校や家庭での取り組みの可能性

学校では防災教育は
減災教育も含めて
とても大切なテーマとなっています。

ただ、その内容が知識や技術の
講義に偏ってしまうと
生徒自身の当事者意識が希薄になり
災害時には役に立ちにくい事も
考えられます。

今回、紹介させていただいた12の質問は
女子高生(中学生)向きですが、
学齢や性別に合わせてアレンジした
個人でもグループでも
ワークを行う事はとても効果的ではないかと
思います。

時間が十分とれない場合は
課題や宿題という形で
生徒の自主性に任せた取り組みでも
いいかと思いますが
何かの形でプレゼンテーションを
する機会を作る事で
各段に身に付き方が違ってくると
考えられます。

ご家庭では、
紹介させていただいた質問カードを
お子様の年齢や性別に合わせて
選んでお使いいただいても
逆に質問カードを参考にして
ご自宅で質問を作ってみて
それをテーマに探求を深めていかれても
いいかと思います。

その探求で得られたアイデアは
プレゼンテーションという形でなくても
何かの防災グッズを
実際に作ってみるのも
家の中に防災を意識出来るような
掲示物を貼ってみるのも
ハザードマップを作ってみるのも
防災食を調理するのも
どんなやり方でも記録に残すと
実用的で達成感が得られるかと思います。

6 最後に

自然災害を含めて
今の時代は何がリスクとなり
生活を根こそぎ変えてしまうかは
分かりません。

だからこそ、
備えられる事に対しては
自分達の頭で考え
自分達に合った方法で
備えを確実にして欲しいというのが
家庭科を通して伝えて来た
メッセージでした。
どうしても知識偏重になりがちだった
授業に風穴を開けるきっかけとなった
取り組みについてまとめさせて
いただきましたが、
この実践例が何かのお役に立つ事が
あれば心からうれしく思います。

長文をお読みいただき
ありがとうございました。

なお多重知能につきましては
YouYubeの方で少し
子どもの好きな事を活かした
勉強のサポート法という事で
紹介させいただいております。
よろしければご覧ください。

下記は本好きな子
「言語的知能」が得意な子
についての動画です。

https://youtu.be/ejfNcnTLFy0