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10代の探究者たちとのインターン生活:”正解”や”効率”を求めない子どもとの接し方の難しさ

1  インターン生活の始まり

「さあ、今日から新しい生活!」期待より不安の方が大きかったインターン生活は今年2021年の10月から始まりました。初めてインターン募集の告知をnoteの記事で目にしてから5か月。デジタルでの応募もクラス見学もスクールスタッフとの面接も初めて尽くしの中、採用が決まった時は心底ほっとしました。

今年の3月に中高一貫校での家庭科教師の仕事を退いてから一人暮らしの親の心配などもあり、時間の融通が利いて責任の少ないポジションで子ども達のいる場所で何か役に立つ事が出来ないかと考えていた私にとってインターンはとても魅力的でした。

そして始まったインターン生活。最初は緊張と何をしていいか分からない不安で身の置き所がなく戸惑いの日々を過ごしました。

でも一番悩んだのは、スクールでのカリキュラムの進め方や子ども達との接し方が学校に勤めていた時とは真逆だった事です。

少しずつ慣れては行きましたが、相変わらすどうすればいいか分からない日々が続く中、スクールスタッフの二人がインタビューを受けた記事を見せていただき、ヒントをもらう事が出来ました。(先生の学校サイトに掲載している記事をまとめた雑誌「HOPE」:雑誌については下記のサイトをご覧ください)


ここでは、そのインタビューのスタッフ達の言葉を引用させてもらいながら、マイクロスクールでインターンを続けながら体験し触れて来た子ども達との関わりについてまとめてみようと思います。

2 ”効率”を求めない接し方

10代の探究者たちの集うラーンネット・エッジは神戸にあるマイクロスクール・オルタナティブスクールです。インターンとして通い始めた最初の月は、それまで勤めていた学校組織とのあまりの違いに戸惑う事ばかりで何も出来ませんでした。(ラーンネット・エッジについては下記のサイトをご覧ください。)


少人数の生徒達と常駐のスクールスタッフ2名の信頼をベースにした密な人間関係がすでに築かれているだろうという事やその中に入るにはとても大変だろうという事は分かっていたつもりでしたが、それよりも大変だったのはスクールでの子ども達との接し方です。

在職中は授業や実習では指導者の立場だったので、やる事が明確で生徒達との接し方で戸惑う事はありませんでしたが、ここでは何もかもが違っていました。

授業の進め方も科目の内容も、掃除の仕方ひとつとっても、全てが学校と真逆で自分がどう行動すればいいのか分からず空回りばかりの日々。

自分では気を遣ったつもりで、机を移動させたり拭き掃除をしたりしても「子ども達にやってもらいましょう」という事になるし、アート等の授業の後片づけも「子ども達が持ち帰りたいモノがあるかもしれないので、子ども達に聞いてからにしましょう」という事になります。

Flexという時間に子ども達で話し合った内容が書かれた板書を消そうとした時も、スマホで撮っていたから消してもいいだろうと考えスタッフに確認すると「子ども達に考えがあるかもしれないので、そのままにしておきましょう」という答えです。

学校では時間割通りに生徒達が行動できるように”効率”を最優先に考え、特に家庭科の実習などでは教師の自分が片付ける方が早かったので子ども達に片付けを任せる、子ども達の自主性を尊重するという発想は全くありませんでした。

さらに授業が終わった後の板書などは「すぐに消す」が原則だったので、そこにも驚きました。
”効率”よく授業や実習を進めるために”手際や段取りの良さ”が求められ、それに慣れていた私にとっては別世界のようなスクールで、子ども達との関係性をどうとらえればいいか分からないまま時間が過ぎて行きました。

このスクールでは”先生”という立場の大人はいません。スタッフのインタビューにも次のようにあります。

先生ではなく子どもとの対話によって刺激し合い、共に学ぶナビゲータと呼んでいます。
子どもとの対話によって刺激し合い、共に学ぶことが役割なので、聞かれたことに素直に答えて、本当に思ったことだを伝える。 そういった人と人との大切にしています。
私達スクールスタッフも講師も少し先に生きている人としてフラットな立ち位置にいると言えるかもしれないです。

これらの引用からも分かるように「フラットな立ち位置」。これが大切な事だったのに学校経験を引きずっていた私は頭では理解していたつもりでも感覚がついていってなかったのだと、ようやく納得出来ました。

ただ納得はしたものの、どの程度まで子ども達の意思を尊重し、フラットなポジションで振舞うかは手探りの状態です。その状況の中でインタビューの中のスタッフの次の言葉は私にとっての指針となりました。

私たちは朝から夕方まで彼らと一緒に過ごしてい て、それぞれの子のいろんな丸ごと見ているので、日々気づかされることがたくさんあります。まず「よく見る」ことが私たちの大切な仕事だと思っています。

”有言実行”。本当にスタッフの二人は子ども達をよく見ていて、それぞれのスタイルで何気ない声かけや見守りをしっかりしていると思います。私も試行錯誤をしながら自分のスタイルをつくって行ければと思っています。

3 カリキュラムの独自性

ラーンネット・エッジの最大の特徴は子ども達の「探究」をメインにカリキュラムが組まれている所にあると言えます。それは記事の中のスタッフの次の言葉からも分かります。

ここでは 「自分を温める」ことを中心にしたいと思い、自分の好きなことを探究することと内省する時間を多くとっています。
午後は「マジ探求」といって、自分が今まさに興味があって取り組みたいテーマについてひたすら取り組む時間なんですが、それは一方で、ある分野に視野が狭まってしまう可能性も持っているんですね。それによって不自由な人生になるのは嫌だなと思うので、他者への想像力をもち、自分自身や物事の本質をより深く理解できるように、教養の科目を入れています。

午後の「マジ探究」の時間は独特の空気感で、新参者の私にとってはとても不思議な時間です。ここでは子ども達各自が自分らしく自分で選んだテーマに沿って活動しています。

カリキュラム・ポリシーである次の3つに沿ったとても穏やかな時間です。

▪「ひたすら」やる
▪ 自分を「ひたす」
▪「ひたし合う」

では午前中の教養の科目とはどんな内容なのか? これは本当に多様な科目が展開されていて次のスタッフの言葉からも分かります。

 学ぶというのはある意味部分的なことですよね。それよりも自分をどう見つけていくというか、どの辺に自分があるのかとか、社会との接点はどこにあるのかなどということをいろんな角度から探っています。

私がインターンとして通うのは週の後半の3日間ですが、それ以外の日の時間割にある「コネクト」については、こういう説明がされています。

もう少し学際的に、世の中で話題になっているテーマをこちらから提供するのが「コネクト」 ですね。社会との接点を持ち、視野を広げてもらうためにやっています。

上の時間割からも分かるように一見しただけでは内容の想像がつきにくいのだけれど、何だか面白そう! ちょっとワクワクする! というような科目が並んでいます。

実はこの科目達こそが頭を悩ませるもとになるとはインターンとして採用された時には思いもしませんでした。

4 ”正解”を求めない接し方

週の後半の午前中の科目は、どれも在職中の学校では目にした事がないような科目ばかりです。
その分、内容はどれも新鮮で子ども達と一緒に授業を受けていても「目からうろこ!」自分の方が楽しめるような状態だったのですが、困ったのが子ども達との接し方でした。

特に「マジ探究カンファレンス」や「Flex」などの時間に発言を求められたり、スタッフから「何か質問はありませんか?」とか「何か感想はありませんか?」などの全体に対して声かけがあった時にインターンとして「何か言った方がいい」と分かっていても言葉に詰まって何も言えない日が続いたのです。

それは、学校で家庭科の授業や実習を指導していた時は”明確な目標や目的”があって学期末の評価に関わるものだったので生徒達の作品や発表に対しては「こういう風にしたら正解」「見本を参考にして出来ていたら正解」というのがはっきりしていたのに、このスクールでは”正解”なんてどこにもなく何をどう言っていいか分からかなかったからだと思います。
(学期末の評価については次のスタッフの説明を参考にしてください。)

通知表の代わりに 「Letter from Edge」 という各講師からのメッセージをまとめたものを出しているので、在籍校にはそれを共有していま す。 成績表は出さないですね。数値評価はできないということを明記して、別添をご覧くださいという形にしています。

この子ども達に”正解”を求めないで接するという事を今までやった事がなかったために「こんな事を言ったら誘導になるんじゃない?」「この内容は指導っぽくてダメなのでは?」など、自分の中で浮かんで来た質問や感想に自信が持てず、ひたすら黙って見守るだけという情けない状態が続いたわけです。

5 フラットな接し方への挑戦

「一度、振り返りをしましょうか?」ある日の放課後、スタッフから言われた一言は有難くもあり怖くもありました。何も出来ていない自分を一番もどかしく思っていたのは自分自身でしたから……。

今、その振り返りの日を区切りとして、少しでも変わろうと意識して行動する日を送り始めました。最近では子ども達とのフラットな関係づくり、フラットな接し方が出来るように自分なりに考え、少しずつ声かけをしています。

それがどの位、子ども達に受け入れられるかは分かりません。でも出来る事はやっていこうと思います。それはインターンを始めた時の自己紹介の文に次のように書いたのに、まだ何も出来ていないと実感しているからです。

皆さんとは年が離れていますが、だからこそ刺激し合える事もあるのではないかと思っています。皆さんの中にともった“火”を大切にしながら学びを楽しみ、皆さんの成長のために少しでもお役に立てればと思います。

6 まとめ

この数年で子ども達の学びの場も変化していき、それに伴って子どもと子ども達を取り巻く大人達との関わりも当然、変化する必要があるのだろうと思います。その現実に直面した時、これまでの習慣にとらわれるのはもったいない事のように思います。

なぜならマイクロスクールで子ども達から学ぶ事は本当にたくさんあると実感しているからです。

来年の3月までお願いしている”10代の探究者たち”とのインターン生活はまだまだ続きます。その過程でどんな変化が起こり、子ども達との関係性がどう変わるのは未知数ですがとても楽しみです。

最後にスクールスタッフのインタビュー記事については、こちらからご覧ください。


長文をお読みいただきありがとうございました。ここでまとめた事が少しでも子どもと関わる方たちやマイクロスクール等に関心をお持ちの方々の参考になれば幸いです。
(終わり)