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既存3Dモデルを3Dプリントに使えるのか?

こんにちは。323工房です。

当工房最初のtips記事ですが、今回は3Dモデリングをしたことがある人、もしくは3Dモデリングの改造をしたことがある人、3Dモデルを3Dプリント出力依頼したいと思っている向けの内容です。

こういった人達の中には…

・自分が作ったモデルは3Dプリントできるのか?

・3Dモデルを改造して自分用に3D造形物として手元に置くことはできないか?

・ちょっとネガティブな話ですが、自分の公開している3Dモデルを勝手にプリントして使用されないか?

こういったことが気になっているのではないかと思います。

それに対する答えを端的に言えばモデルによる、となってしまうのですが、どういったモデルが実際に3Dプリントできるのか、または向いているのか?という情報はざっくりとしたものでさえ一般にはまだまだ不足しているように思います。

そこで、ここでは323工房で実際にいくつかのモデルの3Dプリンタ出力を試してみた結果、どういうモデルが向いているのかを大きく5つの点にまとめて書いていきます。

なお、3Dプリンタには主に積層式と光式が一般的には広まっているのですが、323工房では光式を使用していますので、その内容が中心になります。積層式にでも使える内容はあると思いますが、その点ご了承ください。


1、空中に浮いていない、裏面がない、スムージングがないモデル。

まず基礎中の基礎になりますが、3Dプリントする以上出力される物は現実に召喚されるわけですので、現実に存在しないデータは出力できません。

3Dモデリングには空中に浮かせたり、裏面がない(言い換えれば厚みがない)状態で作られた物があり、逆に言えば現実にはできない状態で作成できるのが3Dモデリングの魅力でもあるのですが、現実の3Dプリンタで出力される際にはただのエラーでしかありません。

特にローポリモデルではわざと空中に浮かせたり裏面がなくしたり、スムージングを利用することで使用するデータ量(ポリゴン数)を削ったりしていますので、こういったモデルは出力できないか、されても一部が欠けたりしておかしなモデルとしてでしか出力されません。

意外とこういう基礎部分がない公開3Dモデルの注意書きにも「3Dプリント禁止」が書かれていたりします。改造すればできなくもないから、という話であればわかるのですが、後述する理由からそこまでするなら……という点もあるので、当工房的にはあまり考えなくても良いのではないか、と思うところです。


2、テクスチャ/ノーマルマップがないモデル。

厳密に言えば色付きのモデルを出力することは積層式3Dプリンタ等の一部で可能なのですが、まだまだ値段も高く、またその彩色も単純なものに限られます。ほとんどの3Dプリントされるモデルは無彩色/単色かつ、ポリゴン面に応じて行われるのでテクスチャ/ノーマルマップ前提で作成されたモデルには向いていません。

この時点で、多くのゲームモデルはまだまだローポリ技術に頼っている面も強い上にテクスチャやノーマルマップにも頼っているため、3Dプリントとはかなり相性が悪いことが分かります。

映像用に関してもゲームに比べればまだポリゴン数を割けるところはありますが、テクスチャやノーマルマップに頼らず作られていることはほとんどないので相性が良いとは言えません。

ですから、ローポリ、テクスチャ、ノーマルマップ前提で作られたモデルのほとんどは3Dプリント用に出力を考えると、設計段階から考え直した方がいいパターンが多いと言えます。


3、厚みが薄すぎる、細すぎるモデル。

続いて問題になるケースは厚みと細さです。当工房では前述したとおり3Dプリンタの種類の中でもかなり細かくパッと見では積層が分からないくらい細かく出力できる光造形式を使っていますが、それでも厚みと細さは問題になります。

3Dプリンタは0.1~0.2mmといった極小の精度で出力できるものもありますが、ではその精度をそのままモデリングに適用できるかというとそれはまた別の問題でして、どうしても溶かした素材を固める工程がある以上、あまりにも薄かったり細かったりする構造は途中で歪みを生じやすいので、ある程度の厚みと太さをモデリング段階から考えておく必要があります。

この厚みと太さについては機械と素材にもよるのですが、当工房がこの記事の画像となっている薄い羽根で何度も検証した感覚ですと、光造形・硬化レジンで作成する場合、確実に出力するには3mm程度の厚さ・太さは確保しておきたいと考えています。

個人でも使える3Dプリンタの多くが縦横高さ15cm程度の立方体に収まることが多いことを考えると、3Dモデリングの時点であまりにも薄い・細い部分は事前に厚く・太くしてあげなければいけません。


4、程よく頂点数があるモデル。

ローポリモデルがあまり向かない点は書いたのですが、ではポリゴンが多ければいいのかというとそれも違うと言わざるを得ないのが難しい所です。

3Dプリントされる場合はスライサーと呼ばれる3Dプリンタへ出力されるデータに変換されるソフトにモデルを入れる必要があるのですが、これで認識される頂点数にある程度抑える必要があります。

Zbrushをはじめとするスカルプト系3Dソフトは手軽に細かい表面表現をポリゴンを使って作れるのでとても3Dプリントと相性が良いのですが、唯一気を付けなければいけないのがポリゴン数の超過です。

ポリゴン数があまりにも多すぎる場合はデシメーター等を使って頂点数を減らしてから出力することになるのですが、この際にせっかく作りこんだ表面ディテールが一部崩れるといったことも起こりえます。

なので、極端に頂点数を増やして作業するよりも、当初からある程度頂点数をコントロールすることを考えて、減らしてもその影響が小さくすることを考える必要が出てきます。

映像用のモデルにはすごく細かく作りこんだものがあり、それを出力出来たら良さそうだと考えることもあるのですが、結局それなりに頂点数を落とした状態で出力し、出力された後に表面加工を施した方が結果として良いものができることもあります。

また、スキャニングされたモデルについても類似の事が言えます。スキャニングされたモデルは極端に大きな頂点するになったり、余計な頂点が入ってしまっていたりするので、そういった加工をする工程が必要になる可能性が高いです。事前にスキャニング精度を調整するか、加工工程を考えるなどして対処する必要があるでしょう。



5、3Dプリントされるのに適した形状をしている。

3Dプリントは理論的にはあらゆる形を出力することができます。しかし、それはあくまで理論的な話で、実際にそれで出力できるのか、できてもそれなりの見栄えや物として使用できるのかというと必ずしもそうではありません。

3Dプリントされるものはプラットフォームと呼ばれる台の上に積層することで作成されていきます。そして、離れていたり大きく飛び出ている箇所があれば、その下にサポートという補助用のプラモデルで言うランナーのようなものが作られます。

素材と作り方にもよりますが、プラットフォームから離れ、かつ支える部分が元のデザインにあまりない箇所ほどサポートによる補助が必要になります。そうすると、このサポートがあまりにも大量になると、その分取り外す際に困難となる傾向があります。

ようするにプラットフォーム側を底面としてピラミッド型に積みあがっていく形が安定しているが、そこから飛び出たり空いていたりすると構造上弱くなり、何らかの形状作成障害を起こしやすくなるということです。(より細かく言えば底面があまりに太すぎるとそれはそれでプラットフォームから外しにくくなりがちにはなるのですが……)

こういった3Dプリントされる構造と強度を考えたモデリングが事前に考えられているかどうかは特に安定した出力をしようとすると重要になります。飛び出た個所がたくさんあって穴が開いていたり細かったりしても奇麗に出力されるかもしれませんが、今度はランナーが増えて上手く外せなかったり、外せても跡が残ってしまうと残念です。

そういった後からのテクニックといいますか手間を減らそうとするとできるだけモデリング段階での配慮が必須ではないかと考えています。

これは自分で作成する場合もですが、3Dプリントを依頼する場合でも重要になると思うので、これから依頼を考えている人も参考になればと思います。



以上5点を大きくまとめましたが、3Dプリントが現実に出力されない前提で扱われている既存の3Dモデルとは違う性質を多く持っていることが分かるかと思います。

なので、形にもよりますが、全般に3Dプリントは簡単に出力出来てしまうというイメージはまだまだ現実には当てはまらないところがあり、3Dプリンタ用の知識、更には素材とその加工を考えた技術も必要になってきます。


◇ トップ画像に出ている翼のCGを使い、実際に出力したアイテム




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