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元教授、 来週の講演の準備を始める(その1: 参加者は誰?): 定年退職97日目

最近、テレビ番組やスポーツの思い出話ばかり書いて、怠惰な日々を送っていました。そのツケが回ってきたようで、論文の審査、学生の学会発表用ポスターのチェック、助成金の審査など、科学に関する仕事が溜まってきています。中でも急を要するのは、来週に迫った講演の準備です。


今回の講演は、学会ではなくある研究会の依頼で、持ち時間は80分と長く、この分野に精通した参加者も多いようです。主催者からは「定年退職の際に行った最終講義の内容をベースに構成して欲しい」と提案してもらいました。ありがたい申し出ですが、さすがに全く同じ内容というわけにもいきません。少し修正を加える必要があります。そこでこの機会に、今回から何回かに分けて、講演準備や資料作成についてお話ししていこうと思います。

講演の準備においてまず必要なのは、「誰に」「何を」「どのように」伝えるのかを把握することです。つまり、どんな集まりで何人くらいの参加者なのか、何に興味を持っているかなどを知るところから始めます。学会や大学の講演であればわかりやすいですが、確認を怠ると、時に困った状況に陥ることがあります。


私の経験から具体例をいくつか挙げてみます。

以前、夏休みに「地元の小学生に科学の面白さを教える」というイベントがありました(下資料:大学の先生は、様々なことをさせられる(させていただくw)ことが多いのです)。大学院生の学生さんと共に、小学生が理解できるようなわかりやすい内容を準備しました。会場は大学の博物館で、行ってみるとかわいい小学生が十数人集まっていました。科学(実験)を勉強するということで小学生たちは緊張していましたが、好奇心旺盛で目を輝かせていました(タイトル写真:片栗粉の実験中の様子)。大学生に多い、曇った目とは大きな違いです(一体いつから、彼らの目はこんなにも曇ってしまったのでしょうか(涙))。

夏休みに「地元の小学生に科学の面白さを教える」イベントのチラシ

さて、ここまでは良かったのですが、想定外だったのは、小学生にはもれなく親がついてきていたことです(昔は親がついてこなかったのでは?)。しかも、熱心な親御さんたちは、私たちが会場に入った途端、一斉にメモ帳を取り出したではありませんか。軽い気持ちでいたので少し焦りました。さらに、その後ろには博物館の先生の姿も。

「一体、誰に向けて話をすればいいんだ?」

結局、後ろの大人たちは完全に無視して、小学生だけを対象に話を始めました。同行してくれた女子学生もすっかり「お姉さん」モードになって、小学生たちに溶け込んでくれました。疲れましたが、何とか無事に役目を果たすことができました。


また、全く異なるパターンもありました。来日したばかりの留学生に講義をした時のエピソードです。近年、大学には多くの留学生がやってきます。そこで、毎年のように化学のガイダンス授業を英語でしないといけません(英語での講義自体も一苦労なのですが、それは後日話します。例えば、出席をどう取るのか、紙を1枚ずつ取ってもらう、どこに座ってもらうかなど、英語でどう言うの?)。学年が上になればなるほど、実は楽になるのですが(専門の話なら、なんとか)・・・。

その時は「化学のイントロダクションの話をしてください」とだけ教務から言われ、教室に入ると約20人の留学生がいました。真面目そうな学生たちで安心しましたが、自己紹介を聞いてみると文学、経済、化学、数学、医学など専門は多種多様、しかも入学したての1年生から大学院生までいました。よくこんなにバラバラなメンバーを集めたなという感じでした。

留学生への講義のタイトル

そこで私は、最初の予定を完全に変更し、簡単な実験を見せたり、体験してもらうことにしました。結果的に、この方向は間違っていませんでしたが、いろいろと大変でした。日本人学生に実験の手伝いを頼むと、大抵一番前の学生だけが手を挙げてくれるのですが、留学生たちは「Any volunteers?」と聞くと多くの手が上がり、収拾がつかなくなりました。また、その薬品にアレルギーがないか? など思ってもいない質問もありました。

それでも、彼らが思いっきり実験を楽しんでくれるのは大きな喜びでした。一方、授業後の感想アンケートでは、今度は容赦なしです。もちろん楽しかったとの好意的な意見が多かったのですが、文系の学生からは「難しくて理解できなかった」との声、理系大学院生からは「子供向けみたいでレベルが低かった」との厳しい意見も。日本人学生の忖度まみれの感想とは全く違いました。まあそれでも、楽しかったので良しとします。


今回は、講演前には「事前に参加者の概要を把握しておくことが重要!」という話でした。これからも何回か、講演のための話を続けたいと思います。次回もお楽しみに。


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