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考古学に革命を起こす AI の最前線: ナスカ地上絵の新発見 (元教授、定年退職187日目)

先日、NHK Eテレの「サイエンスZERO」から「元寇遺跡で活躍するトレハロース」というトピックスを取り上げました。その回は「考古学をリードする最新テクノロジー」という特集で、興味深い「ナスカの地上絵を AI で探索する試み」についても紹介されていました(タイトル写真:注1)。今回は、AI を使った考古学の研究最前線にについてお話しします。また、このプロジェクトに関しては「日経サイエンス2023年3月号」にも詳細に特集されていましたので、合わせてご紹介します(下写真、注2)。

サイエンスZERO(注1)
日経サイエンス2023年3月号(注2)


世界文化遺産の一つである「ナスカの地上絵」は古代アンデス文明の遺跡で、描かれたのは 1500 年以上前です。飛行機のない時代にどうやって描いたのか、どんな目的だったのか、歴史ロマンを掻き立てる謎に満ちています。私も知っているハチドリの地上絵などは約 100m もの大きさで、今から約 100 年前に発見されました。21 世紀に入っても 10m くらいのヒト・ネコ・サカナなどの小さな地上絵が次々と発見されています。(下写真もどうぞ)

約100mもの大きさのナスカの地上絵(注1)
10mくらいのヒト・ネコ・サカナなどの小さな地上絵(注1)


この研究に取り組んでいる世界で唯一の研究組織が、山形大学 坂井正人教授らのグループで、ぺルー政府の文化省から許可を得て現地調査を行っています。広大なペルーの大地から航空写真を使って地上絵を目視で探すのは、特に小さな絵に関しては困難を極めました。そこで、元々多様な専門家からなるそのグループに AI エンジニアが加わり、共同研究が始まりました。

考古学者と日本 IBM のデータサイエンティストは、車の自動運転にも使われている AI のディープラーニングを用いて、新たな地上絵の探索に挑戦しました(下写真)。ディープラーニングとは、学習用データを解析して共通特徴を抽出し、そのパターンを認識する技術です。試行錯誤を重ねて探索精度を向上させた結果、ついに棒を持った「ゆるキャラ」状の地上絵を発見しました。

ディープラーニングの説明(注1)
AI のディープラーニングで地上絵の探索に挑戦(注1)


上空からでは自然の大地に紛れて見分けがつかないため、AI にどこを注目させたのか、私はそこに興味がありました。そのポイントを番組では先ほどの「ゆるキャラ」を用いて説明してくれました。下の写真の頭の部分にある短い曲線が並んでいる箇所が、人為的な線の特徴と考えたのです。具体的には、すでに発見されている地上絵を分割して、そのパーツの線を AI に学習させ、その後、航空写真の中から同様のパターンを探索しました。

AIにどこを注目させたのか?:頭の部分にある短い曲線が並んでいる箇所が人為的な線の特徴(注1)


2019 年に4点の地上絵を発見したのを皮切りに、その後飛躍的に発見数が増加し、2024 年現在では 303 点にものぼっています。坂井教授は、最終的には 1000 個以上発見できるのではと期待しています。そして、最終目的は、地上絵の分布図を作成し、並び順や関係性を調べ、地上絵の制作目的を明らかにすることだそうです。(下写真、<追記 1> もどうぞ、ご参考に)

地上絵の分布図を作成し、並び順や関係性を調べ、地上絵の制作目的を明らかにする(注1)

<追記 1> 「日経サイエンス」に掲載された坂井教授らの文章によると、地上絵は第1から第3ルートまで知られており、いずれも儀礼的な性格が強い宗教的な道に関係するようです(儀礼に関係した多くの土器が見つかっています)。第1と第2のルート上の動物などの地上絵は、歩いていると自然に目に入る道しるべになります。第3ルートは巨大な直線が多く、神殿へ向かう道の役割を果たしていたようです。また、大きな地上絵に関しては、天上に住む存在(農耕民だった古代ナスカ人が豊作を祈願する超自然的存在)が空の高い場所から見下ろすことを想定して描かれたと考えられています。

日経サイエンス2023年3月号の文章を要約


AI を使った科学研究は、このように夢のあるテーマにも活用され、日々進化しています。AI がどのように活用できるのか、その可能性を探ることが、今後の研究の大きなポイントとなるでしょう。(他の例として、<追記 2> もどうぞ)

<追記 2> 奈良文化財研究所では、AI を用いて古墳を探索しています。兵庫の山中から寺院や古墳跡を35基も発見しました。このケースでは、ナスカの地上絵のように線を探すのではなく、立体地図を AI に学習させることで、地形の 3D データを画像化し、古墳の可能性がある地形を特定しました(下写真)。

立体地図をAIに学習させ、寺院や古墳跡を発見(注1)

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注1:NHK Eテレ「サイエンスZERO:考古学をリードする最新テクノロジー」より
注2:新発見!ナスカの地上絵、日経サイエンス2023年3月号((株) 日経サイエンス)より


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