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【体験談】電車で席は譲りますか?

電車で席を譲るか、譲らないか。
僕は迷う時がある。

目の前に立っているこの人は年寄りなのだろうか、席を譲って「まだそんな歳じゃありません!」と嫌な気持ちにさせないだろうか。
「べつに座りたくないんですけど」とならないだろうか。
なんてことを考えてしまう。

実際、過去を振り返ると、席を譲った場合、50%くらいで座って貰える一方、
「あ、次でおりるんで大丈夫です。」
「立つことは健康だから大丈夫よ」
「あーいいよいいよ、まだそんな歳じゃありません」と断られたこともある。

立ち上がった後に「大丈夫です」と言われてしまった時の絶妙な空気感は少しだけ恥ずかしい。

だから大学一年生くらいからの僕は「座ったら音楽を聴きながら下向いて寝る」という手段に出た。

人間として微妙な行動であろう。

しかし、可もなく不可もないこの行動は楽だった。

一方、大学三年生くらいからは少し善人に進歩した。

お年寄りが前に立ったら、黙って立つ。
という手段に変わった。

まぁ、人間として微妙なのは変わらない。

「どうぞー」とも言わない。
シラっと立って、次降りるんですとばかりにドアの前に行くのである。

普通に嫌な感じな人に見られがちかもだが、何にも気を使わなくていいため、結構気に入っていた。

中には「ありがとね〜」とお礼を言ってくれる人がいることは嬉しかった。

まぁ、譲ることについてはこんな感じだ。

一方、席を譲られる側について、ちょっと話をしたい。過去の体験談を話すことにする。

ある日僕は骨折した。

スノボーで足の骨を悪くし、剣道がトドメとなって骨折してしまった。疲労骨折というやつだ。

松葉杖生活が始まった。

電車に乗る時も杖を両脇に挟まなければならないため、やけに恥ずかしい。

僕は、電車のドアの脇に立って、寄りかかるのが好きだった。

その日、電車は割と混雑していた。通勤時間だから仕方がない。僕は、いつも通りドアに寄りかかって電車に乗っていた。

すると、一人の60代くらいのサラリーマンが人をグイグイ押しのけて僕に近づいてきた。

「席空けたのでどうぞ!」
はっきりとした声が響いた。
正義のサラリーマンといった感じだ。

「あ、ありがとうございます」

世の中捨てたもんじゃないなぁと思いながら、僕は席に案内された。そこは優先席だった。

満員電車で優先席に座るということに少し罪悪感を感じながら、僕は腰を下ろした。
骨折しているとは言っても、立っているのは全く辛くないため、若者の僕が優先席に座ることに対して申し訳無さがあったのだ。

授業をサボって保健室で休憩するような後ろめたさを少し感じた。

けど、ありがたいし、嬉しかった。
サラリーマンには心から感謝した。

僕に席を譲ってくれたサラリーマンはずっと僕の前に立っていた。

数駅が過ぎると、そのサラリーマンが怒鳴り始めた。
「ちょっと、お婆さん立ってるんだから席譲りなさい!」

僕は下を向いていたため、自分に言われたのかとビックリしたのだが、僕に言ったのではなかった。

隣で寝ている中年のおっさんに注意していたのだ。おっさんは突然怒鳴られて、俺?とばかりにサラリーマンの方を向いた。

サラリーマンは「ここ優先席ですよ!?」と威圧する。声がとてもデカかった。
そして張り詰めた空気が流れた。

おっさんは舌打ちして不機嫌そうに立ち上がり、静かに席を譲っていた。

正義のサラリーマンは、また人を押しのけてお婆さんのところまで行き、「席が開きましたよ」と席を譲る。

ただ、問題が起きた。
そのお婆さんは「大丈夫よ」と一蹴した。

ふわふわの風船を両手でプレゼントしてあげたのに、一瞬で針で粉々にされたような衝撃だった。

僕は心の中で、「ええ!お願いだから座ってあげてくれよ!誰も報われないやん!」と思ったが、そんな声は届かない。

サラリーマンは「あっ、そ、そうですか」と言って、静かになってしまっていた。

僕の隣の席には、重い空気だけが座った。

結局、僕が乗り換えの駅に着くまで、僕の隣の席は空席のままだった。

僕は誓った。

席を譲られた時、とりあえず座るようなお爺さんになろうと。

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