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【体験談】部活と上下関係と苦悩(3)

はじめてのお説教

入部をしてから数日、自分の行動の遅さやミスが原因で先輩に小言を言われ、影で嘲笑される日々が続きました。
また、僕の同期が先輩の逆鱗に触れ、怒鳴られている姿も多く見ました。
一年生は先輩に萎縮する部活内の奴隷になっていました。
楽しい楽しい大学生活を想像していたやる気に溢れた自分は、だんだんといなくなりました。


たしか入部してから5日目くらい、思いもしない出来事が起きました。

その日もいつもどおり、朝に一年が仕事を済ませ、先輩たちが平民、貴族、王の順に到着し、王の指揮で練習が始まりました。
僕の部活では、四年が王、三年が貴族、二年が平民、一年が奴隷という縮図です。

部活も小休憩に入り、一年が先輩に水を配ります。
水の入ったコップを両手に持って、こぼさないように小走りで四年生から順に渡して行きます。


水を準備する僕のところに、四年生のある先輩が来ました。
「お疲れ様です」
そう言って、僕がコップを出そうとした時。
先輩は僕の両手に持っているコップを勢いよくなぎ払いました。コップは宙を舞い、水が飛び散り、近くにいた同期が「うわっ!」とびっくりする声の直後、カランカランとプラスチックと床が打つかる音が鳴りました。

僕は胸ぐらをグワッと掴まれ、首が締まりました。
目の前には、鬼のような形相で今にも暴力を振るおうとする先輩の目がありました。
僕の心臓の鼓動は破裂しそうな勢いで動き、一瞬で汗が噴き出たのを感じました。


数秒の静寂


同時に、先輩が何に対して怒っているのか分からなかったため、脳をフル回転し考えました。

そんは僕の脳内をよそに、

「お前さぁ」
音のなかった空間に、目の前から小さく冷たい声が付き刺さります。


「ナメてんじゃねぇぞ」
先輩は、真横でびっくりして立っている一年生のコップをおもむろに奪い、僕に向かって水を直撃でかけました。
雷が自分に落ちたかのような出来事にビックリどころではありませんでした。

間髪入れず、先輩は僕の腹を思いっきりグーで殴りました。

殴られた部分は、防具をつけているから痛くはありません。しかし、先輩の拳は裸のため、痛むはずでした。
自分の痛みを顧みない思い切りの拳に、とてつもない先輩の怒りを感じました。

そこからの記憶は断片的です。

一気に言葉を投げられため、記憶が曖昧ですが、1分くらいの時間、僕はそこで立ち尽くし、先輩の言葉を聞きました。
その後、練習場へと先輩は去っていきました。

先輩が怒っていた理由は駅で通りすぎたのに挨拶しなかったことが原因でした。どうやら、目があったのに挨拶しなかったことが、わざとであると受け止められたようです。
(その時は先輩の友達がいたため、現地で言わなかったらしいです。)


僕には意味がわかりませんでした。
これが部活では普通なのか。
僕が常識外なだけなのか。
入って数日で何十人もいる部員全員の顔を把握できるわけがない。
ましてや学校外の駅でなんて分かるわけがない。
そもそも、挨拶しなかった程度で血管が切れそうになるまでキレるって頭がおかしいのか。

その時は、あまりの理不尽さに頭が爆発しそうでした。
しかし、先輩は【絶対】であるため、自分が受け入れて、挽回するしかないという現実があることは明確でした。

これから。本当に気をつけよう。
そう心に決めました。
部活の空気の重圧や先輩による数々の言葉によって、すでに僕はネガティブになり、病み始めていましたが、その時はまだ、希望を持つ力がありました。

部活が終わったら、しっかりと謝りに行こう。
そう思いながら、全く集中のできない練習を終えました。
部活が終わり、ある程度、一年の仕事がひと段落して先輩の元へ行こうとしました。
すると、同期の一人が「ちょっと来い」と言って、僕を洗濯室に引っ張り入れてきました。

「お前、辞めるなら今やめろ」
そう言われました。
二人きりの空間に張り詰めた空気が流れました。

(この時の彼が、先輩をイライラさせる元である僕を邪魔に思っていたのは半年後に聞きます)

自分が部活に悪影響を与えているなら辞めたほうが良いのか。
そうも考えました。
でも、「いや、辞めない」と言いました。
自分がその時、無性に意地になっていたのも辞めなかった理由の一つですが、校内で剣道部とすれ違うたびに肩をすぼめて過ごす4年間がなにより嫌でした。


また、僕が今から先輩に改めて謝りに行こうとしてることを言うと、謝りに行かず行動で示すようにしろ言われました。
その指摘はごもっともだと思いました。
けど、自分の中に不愉快にした原因があり、自分の姿勢を示すためには、謝罪はすべきものだと考えました。
結局、同期と意見は分かれたまま口論になった末、僕は勝手に謝りに行きました。

先輩は「はいよ。」とだけ言いました。
謝る意味はあったのだ。と思い込もうとしたうえで、これからの対策を練りました。
・先輩の顔を全員覚えるまで、これから体育棟の人たち全員に挨拶をする
・外では足元しかみない。
先輩に怒られない対策としてこの二つを思いつき、実行する決意を固めました。

一方で、同期との歪みは徐々に広がりを見せていました。
僕にはもちろん精神的余裕はありませんでしたが、そもそも僕の同期にも余裕はなかったのです。
「今年の一年は仕事が出来ねぇ。」
僕らの代は先輩たちに呆れられる存在でした。
僕が先輩に水をかけられ怒られるのを皮切りに、同期の中で、「同期を信用しない」という空気感が形成されつつありました。
僕以外の同期同士でも「自分で考えろ」という言葉が使われ、「自分一人だけで」という思考をみんなが持ち始めたように見えました。

大会でのやらかし

入部数日後、部活の大会がありました。

試合には先輩の中の選手が出場します。
一年生は、仕事場を割り振られ、僕は大会に来た保護者や学校関係者を誘導する係につきました。
学校の名前のついたプラカードを持って、大会の玄関に立ちます。
立っている間は、ポケットに手を入れてはならず、直立しなければなりません。
それを朝の8時から12時くらいまでやります。
一歩も動かず何もせず直立することはなかなか苦痛でした。
僕に与えられた仕事はそれだけで、他の仕事については同期は、「様子見て動いて」とだけ言いました。
どうやら同期も目先の仕事以外ちゃんと把握していないようでした。
僕は、まぁなんとかなるか。という楽観的な気持ちで、プラカードを持って立ち続けました。

13時になりました。
もう、会場に入っていいよ。と先輩に言われ、室内に入り、室内の観客席に行くと、同期がたくさんいました。
どうやら一旦仕事は無いようでした。

今仕事ないなら、昼飯食べようかな。
お腹が減っていました。

僕は購買にいって、カップ麺を買って、一人で食べました。

気を張る仕事もひと段落して、この昼食の時間だけは、割と至福の時間でした。

しかし、思いがけない事件が起きました。

ズルズルと麺をすする僕に、「おい」と声をかけてきたのは、部活で一番怖いと言われる先輩でした。一言で言えば元ヤンという感じです。

「お前、まだ昼飯食ってねぇ先輩いんのに、何食ってんの?」

「…はい」
もはや、何も言えませんでした。
先輩が全員食べ終わるまで、一年は飯を食べてはいけない。当時、僕の常識の辞書にそんなことはありませんでした。
「すいません。食べていいものと勘違いしてました。」と言いました。
「殺すよ?」
「てめぇ、次なにかしたら原型がないほどその顔ボコボコにしてやるからな」

喋ったこともない先輩に言われた言葉は、僕の中にもうほぼ存在しない精神的な余裕を全て奪いました。

僕は七割残ったラーメンを購買横の残飯入れに捨てて、みんなのいる観客席に向かって走りました。

部活のみんなに知られるのが怖い。
同期に呆れられるだろうか。
罵倒されるだろうか。
無かったことにしたい。
「昼飯を先輩より先に食べる」という行為は大罪。

走っていた足が徐々に重くなり、僕はトイレの個室に入り頭を抱えました。

生きた心地がしなくなりました。
部活の中のルールや常識を幾多と破り、「なんだあいつ」という目をたくさん向けられ、それを見ぬふりして、無理にポジティブに考えて過ごした数日間を思い出しました。

味方がいればどんなに楽か。
その時の同期は余裕がなく、お互いに無関心でお互いに罵り合う。
上に立つ先輩はまさに悩みの種。
誰も味方ではありませんでした。

「もう潮時かな。」
「辞めたらさぞかし楽だろう。」
「自分は向いていなかった」
この時、心はもう折れていました。
自分の中で今までに無いほどの不安と絶望を感じずにはいられませんでした。


続く

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