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ショートショート:トロンボーンの口調

どこからか響いてきた音色に、思わず振り向いてしまう。あたりを見渡してから、吹奏楽サークルが向こうで練習している音だと気付いた。

「めっちゃ好きだよね、吹奏楽」
隣を歩く友人がくすくす笑う。
「別に」
「嘘。大好きじゃん。学祭の時も目キラキラさせてさ…」
「そんなんじゃないもーん」
おどけてみせたが、ニヤニヤしていた友人はふと真面目な顔をした。

「もうやらないの?吹奏楽」
何度私が、自問自答してきたことか。

「やらないよ」
「なんで?いつでもメンバー募集してるらしいよ。トロンボーンも足りてないって」
「ブランクがあるし」
「たった三年でしょ?」
「三年も、だよ。もうすぐ四年」
ぴっと四本の指を立てて、友人に見せた。

「ふーん」
友人も真似をして指を四本立てる。
「君が演奏してるとこ、見たいけどね」

優しい友人を、曖昧に笑ってやりすごす。

聴こえてくる、トロンボーンの音色。

「またこちらにおいでよ」
とも
「もう来るなよ」
とも

どちらにも聴こえてしまうんだ。



(410字)




※フィクションです。
たらはかに(田原にか)様の企画『毎週ショートショートnote』に参加いたしました。

実は矢口、中学時代は吹奏楽部でトロンボーンをしていました。高校でも大学でも、そして今でも、またやりたいと思うけれど、なかなか踏み出せないものですね…。

ついでに、吹奏楽関連の過去作品でも。




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