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第二次『露西亞文学』について/目次(創刊号~2巻3号)

 蓜島亘『ロシア文学翻訳者列伝』には、東京外国語大学の学生やOBを中心に作られた雑誌『ロシア文学』についての解説がある。この雑誌は日本における露西亜文学移入の観点において重要なもので、現代に残る翻訳を残している翻訳者達も多く参加している。『日本近代文学大事典』の解説を引用しておく。

研究雑誌。
大正一〇・九~?、二〇号まで確認。編集兼発行人本郷保雄、蔵原惟人。露西亜文学研究会発行。従来の研究紹介に批判的な東京外語露語科の在学生および卒業生がより真摯な研究を目ざして創刊。八杉貞利、中村白葉、馬場哲哉、蔵原惟人、丸山政男、鳴海完造らの参加で、プーシキンの『青銅の騎士』(大10・9)、ネクラーソフの『赤鼻のマローズ』(大11・2)の初訳、ドストエフスキーらの特集(大10・12)など毎号意欲的紹介がみられる。なお同名の「露西亜文学」は明治四三年一〇月、東京外語在学中の米川正夫、白葉を中心に創刊され、七号まで続いた。なかに、『トルストヴ号』(明43・12)などの特集もある。             
                             (柳富子  1977記)

日本近代文学大事典

 『ロシア文学翻訳者列伝』では、「大正一〇・九~?、二〇号まで確認」されているものが「第三次」、「明治四三年一〇月、東京外語在学中の米川正夫、白葉を中心に創刊され、七号まで続いた」ものが「第一次」と呼ばれている。しかしどうしたわけだか「第二次」については触れられていない。これが気になったので調べてみると、たしかに大正七(1918)年創刊の『露西亞文学』というのがあった。せっかくなので、日本近代文学館に所蔵されている限りで目次(創刊号~2巻3号)を作ってみた。何かの役に立つかなと思って作成したのが去年だったが、死蔵していても仕方ないので、ここに掲げてみる。

 『露西亞文学』大正七(1918)年、編輯兼発行人=浅野良吉、印刷人=山田三次郎、印刷所=山田活版所。同人は浅野良吉、富士辰馬、長岡義夫、桑山対地、針替彌作(近代文学館に所蔵されている限りでは、後記である「治外法権」に同人として苗字が挙げられるのみ)、水谷友一、除村吉太郎など。同人である浅野、富士、長岡、また寄稿者の松永信(=信成、秋雄)など、執筆者は概ね東京外国語学校の卒業生である。
 創刊号の後記で米川正夫や中村白葉らの第一次『露西亜文学』に言及しているが、「何もそれを拝借したわけではない。外に適当なものがないので、誰れにも雑誌の内容が分るようにと思ったから」この題名にした、また「その方々が吾々の先輩であるから、寧しろ本誌発行を喜んで下さると決めて、別段おことわりもしなかった」とのこと。それにもかかわらず(おそらく)この雑誌が「第二次」とされているのは、東京外国語学校露語科関係者によるものであるためだろう。二巻二号からは松永信(=松永信成、秋雄)訳によるロープシン「青褪めたる馬」の連載があるが、これが完結したかは不明。また、「雑誌の外に叢書と云ったものを出して、露西亞文学、美術等の翻訳紹介をするつもり」というが、それらが実際に刊行されたかは不明。
 『ロシア文学翻訳者列伝』に名前が見られる者も数人いるが、「第一次」「第三次」と比べれば見劣りするのはまあ確かで、それゆえに『列伝』では取り上げれなかったのだろう。

創刊号(大正七年十一月一日発行)
表紙(ソロモノフ筆)
ルリヱ博士の犯罪(アルツイバーシエフ) 浅野良吉
落葉(ロザノフ) 富士辰馬
白い馬(ブーニン) 長岡義夫
自叙伝(ブロツク、アルツイバーシエフ) 訳者の署名なし
復讐者(アルツイバーシエフ) 桑山対地
治外法権 同人
裏絵(チリコフ)

十二月号(第二号)(大正七年十二月一日発行)
表紙(ソロモノフ筆)
作者の手記(アルツイバーシエフ) 浅野良吉
スペートの女王(プーシユキン) 桑山対地
自叙伝 チリコフ ザソヂムスキイ チユルコフ
電車の中(クープリン) 富士辰馬
白い馬(ブーニン) 長岡義夫
治外法権 同人
裏絵(クズミン)

第二巻一月号(大正八年一月一日発行)
老教授の死(アルツイバーシエフ) 長岡義夫
手帳より(チエホフ) 富士辰馬
自叙伝 ヅイモフ トマシエフスカヤ アンドレーエフ
象(クープリン) 桑山対地
馬の頓死か露西亞人の寛大か(チエホフ) 富士辰馬
露西亞文学一月暦 浅野良吉
地下室を出て(アルツイバーシエフ) 同人編
治外法権 同人
裏絵(ルカヴイシユニコフ)

★「治外法権」によると表紙はモスクワ美術座のマーク。裏絵は「ゴロデエツキイの描いたルカヴイシユニコフの肖像」。
★目次ついて。「地下室を出て」は実際には浅野良吉訳になっており、「露西亞文学一月暦」は無署名になっている。
★「治外法権」によれば「老教授の死」はアルツィバーシェフの長編小説「ウ・パスリエドニヱイ・チエルツイ」(У последней черты)の抄訳とのこと。
★水谷友一が新たに同人に加わったとのこと。

第二巻二月号(大正八年二月一日発行)
表紙(マスクワ美術座マーク)
青褪めたる馬(ロプシン) 松永信
裁判前の夜(チエホフ) 富士辰馬
露西亞文学二月暦 同人編
少年の自殺(クランヂエーフスカヤ) 水谷友一
作者の手記(アルツイバーシエフ) 浅野良吉
治外法権 同人
裏絵(レーミゾフの肖像)

★「治外法権」によれば、松永信は同人ではないが、今回のものは寄稿してくれたとのこと。
★前回の「治外法権」で同人の長岡が昇曙夢を雑に批判したことが本人の耳にも届き、昇は寛大にも許してくれたが、本人は大変恐縮している由。
★四月号はチェーホフ特集とのこと。

縮小号 第二巻三月号(大正八年三月一日発行)
表紙(マスクワ美術座マーク)
『物語』の一篇(ゴールキイ) 浅野良吉
是非のない愁嘆(チエホフ) 富士辰馬
自叙伝 ラザレーフスキイ
露西亞文学三月暦 同人編
親しい知合い(カーメンスキイ) 水谷友一
作者の手記(アルツイバーシエフ) 浅野良吉
治外法権 同人
裏絵(セミヨン、ユシユゲーヴヰナの肖像) オーシプ、ドウモフの戯画

★「治外法権」によれば、この号から除村吉太郎が同人に加わったとのこと。五月号にメレジコフスキーの「青褪めた馬」の評論を翻訳する予定とのこと。
★「四月号を別項広告の如く『チヱツホフ』号として『増大号』とするために、伸びんとするものはまづ屈せよと云った筆法」で縮小号にしたとのこと。
★「チヱツホフ号予告」は以下の通り。
『ワーニヤ叔父さん』論 ドミトリイ
チヱツホフ追想記 クープリン ラザレフスキイ
感想三篇 チヱツホフ
短編小説 チヱツホフ
戯曲(作者ノ死後発見セラレタル) チヱツホフ
挿絵 四枚

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