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ダニエルジョンストンのこと。


ダニエルジョンストンが亡くなったそうだ、58歳。

正直、よく生きたなぁ〜と思った。
一般的には若すぎる死かもしれないけど、58までよく死ななかったなぁいう感想がまず最初に出てくるファンも多い気がする。



よく知られているようにダニエルジョンストンは双極性障害(躁鬱病)のアーティストだ。

何年か前にダニエルジョンストンの伝記映画『悪魔とダニエルジョンストン』を観たけれど、それはそれは混沌とイノセンスを孕んだすさまじい人生だった。


キャスパーやキャプテンアメリカなどのアメコミが大好きで、絵を描き、八ミリ映画を撮り、幼いころからクリエイティブな性格だった。自閉症っぽいイメージもあったけど、意外にやフレンドリーで社交的。ビートルズをきっかけに音楽に出逢い、自宅のガレージで録音を続ける日々が始まる。


1985年に放映されたMTVの1コーナーでたまたま出演したライブ映像が取り上げられ、そこから地元のオースティンを中心に徐々に注目され始めるようになった。

https://youtu.be/ICLXH8wdXhk


印象的なエピソードだったのが、ダビング機能を知らずに毎回収録してテープを配ってた話(50本くらいあったと思う)、父親と自家用飛行機に乗って口論になり、怒ってハンドルを握り飛行機を墜落させてしまった話(2人とも骨折してボロボロになっていた)、自由の女神に悪魔払いの魚の絵を描いて逮捕された話とか。売れてから精神病院に入院させられた期間もあって、常に不安定な状態だったようだ。


あらゆる言動が突飛で過激で、彼と関わる人々は毎日頭を抱えながら過ごしていた。でも皆が口を揃えていうのが「ほっとけない」ということ。ほっとけなさというのは、人間が生き延びるために結構だいじな素質なのだ。



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ダニエルジョンストンといえば、カートコバーンが着ていたTシャツとしても有名なこのイラストだ。つのみたいにニョキッと生えた目、たらこ唇、むっちりした手足。どうやらカエルらしいけど。


こいつを見るといつも思い出すのが友人Hのことだ。彼はダニエルジョンストンのことはよく知らなかったが、"なんか可愛い"という理由でこのTシャツをよく着ていた。曲をいくつか教えてあげると「歌詞がいいね」とラインが返ってきた。



彼も双極性障害だったらしかった。そして、去年の暮れに亡くなってしまった。26歳だった。
偶然なのか故意なのか、生前最後のインスタグラムの投稿はsmells like teen spiritのカバーであった。


せめてあと一年待てばよかったのに。相変わらず気が早いところがHらしくもあった。

(追記:後々確認しましたが当時24歳か25歳だったようです。)


Hはわたしにとって「ほっとけない友人」だったし、みんなにとってもそういう存在だったとおもう(もちろん、家族やパートナーとはまた違った関係性だったとおもうが)。定期的に、高揚した彼から多種多様なラインが来た。そのほぼ8割ぐらいがなにかを一緒に作る誘いだったとおもう。音楽であれ、プロジェクトであれ、漫画であれ、それはとても独創的なものだった。毎回理解の範疇を超えすぎていたので、腹をかかえて笑った。やり場のないエネルギーを創作という形に変えてなんとか自分自身を生き伸ばしているような。そんな印象を受けた。



好きなダニエルジョンストンのpeek a booという曲の最後に、(Hが気に入っていたのもこの曲だった)


You can listen to these songs
Have a good time and walk away
But for me it's not that easy
I have to live these songs forever
Please hear my cry for help, and save me from myself


という歌詞がある。この部分は泣けてしまう。


みんなが当たり前に手にしている平穏な日常というものがジョンストンにはない。でも、ジョンストンには辛さを抱えながらも生き延びる理由がある。音楽が自分を救ってくれると信じているし、実際に何度も救われたからだ。

ジョンストンの両親は熱心なキリスト教の信者だったが、彼は神に祈る代わりに、音楽と創作に全てを委ねた。その代わりのきかなさに、ひどく心を打たれた。たどたどしいローファイな宅録感も相まって、この曲を聴くと胸がきゅーっとなる。


精神病院から退院したあと、ジョンストンは地元に帰ってまた音楽を始めた。記憶だと近所に住んでいる17歳ぐらいの男の子とその友人たちとバンドを組んでいたと思う。その時のジョンストンの表情がいまでも忘れられない。今を生きている感じがして楽しげで、本当に幸せそうだった。

わたしは後悔はあまりしない人間だが、もしまたどこかでHと会えるならば、もう一度一緒に音楽をやりたいと強く思う。





元気になります。