見出し画像

[図解]IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ【Yuの本棚⑦】

事業再生の仕事に関してリサーチする機会があり、事業再生や経営コンサルティングで有名なIGPIの、経営分析の考え方がまとまった本を読んだので、備忘録として読書メモを残します。


どのような内容?


『IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ』は、経営分析のプロフェッショナルである冨山和彦氏と経営共創基盤(IGPI)のコンサルタントたちによる、現場で培われたノウハウと実践的なテクニックが詰まった一冊です。従来の経営分析や財務分析が、過去の数字を評価することに重きを置くのに対し、本書が提唱する「リアルな経営分析」は未来に向けた視点で、企業が今後どのように成長し、あるいは潜在的なリスクを乗り越えていくのかを考察することが目的とされています。

経営分析とは?


まず、経営分析とは、単に損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)の数字をチェックすることではありません。数字はあくまで「結果」であり、その背景にある「企業がどのような構造で利益を上げ、何が経済的に成功を支えているのか」を捉えることが重要です。本書では、「隠れた病気」を見つけるための分析として、企業の財務面だけでなく、ビジネス構造や業務フローに目を向け、企業の動態的な部分を掘り下げて理解することを重視しています。このような分析手法により、経営者は未来のリスクや成長機会を見逃すことなく、的確な経営判断を行うことができるのです。

共有コストと「規模の経済」「密度の経済」

経営分析の際には「共有コスト」が大きなテーマとして取り上げられています。共有コストとは、売上が増えてもコストがさほど増加しない経費項目のことを指します。この共有コストが多い事業では、規模の経済が効きやすく、企業は規模が大きくなるほど利益率が高まることが期待されます。しかし、単に規模を拡大するだけで成長を見込める業界は実は少なく、共有コストが薄い業界や業種では、規模の経済よりもむしろ「密度の経済性」が鍵を握ります。密度の経済性とは、シェアの拡大によって競争優位性が高まり、価格競争から免れることができる構造です。例えば、スイッチングコスト(乗り換えコスト)が高いサービスを提供する企業は、顧客が他社に乗り換えにくく、安定した収益基盤を築けるのです。

シナジー効果の実現可能性


本書ではM&Aや新規事業の立ち上げにおいて、一般的に期待される「シナジー効果」が自動的に発生するものではないことも強調されています。シナジーを発揮するためには、関わる両者が同じ目標に向けて、長期的な努力を継続することが必要です。例えば、買収された企業が母体企業との統合をスムーズに進め、双方の強みを生かすには、共通の目標意識と経営努力が欠かせません。このようなマネジメントの取り組みがなければ、シナジー効果はただの「幻想」となり、期待する成果が得られない可能性があるのです。

業界のバリューチェーンと単品管理


業界分析においても、本書は独自の視点を提案しています。市場の成長性や規模といった指標に加え、インダストリー・バリューチェーン全体の成熟度や、自社がどの段階に位置しているかを把握することが、将来の競争優位性を見極める上で重要だとしています。具体的には、企業が属する業界が黎明期、成長期、成熟期、または衰退期のどこにあるのかを判断し、その業界内での自社のポジションと付加価値を分析することで、将来の収益構造やリスクを予測できるようになるとされています。

また、事業を分析する際の基本として、「単品管理」の重要性が挙げられています。単品管理とは、商品やサービスごとに利益率を明確に把握し、利益を生み出しているのか、コストがかかりすぎていないかを精査する手法です。例えば、売上伝票を見ただけでその商品の原価や利益率が瞬時にわかるようになると、経営改善のスピードが格段に向上します。本書では、こうした単品管理が不十分な企業も多く、改善のための一歩として取り組む価値があるとされています。

経営分析の目標


最終的な経営分析の目標は、「企業の未来を構造的に見通すこと」にあります。分析においては、企業の儲けを決定するメカニズム(経済性)と、財務の健全性(生存能力)を徹底的に検証し、その結果が企業の戦略や将来像と整合しているかを確認することが求められます。経営分析は、単に数字を計算してその大小を評価するのではなく、その数字が示す事業実態を理解するための「道具」なのです。著者は、企業の生き残りと成長に必要な構造的な視点を持つことで、真の経営判断が可能になると強調しています。

本書は、経営分析において「現場」を重視し、数字に隠れた背景を明らかにすることで、企業の本質に迫るための指南書です。単なる数字の解釈に終わらず、リアルな経営の動態を把握するための具体的なノウハウが詰まっており、企業の経営者や管理職、さらには経営分析に興味を持つビジネスパーソンにとっても実践的かつ価値のある内容が盛り込まれています。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?