「孤独に食べる」から始まる次のキャリア ["つながる”ためのアローングルメ#1]
もともとひとりで外食をするのは吉野家でさえ躊躇する性格だった僕ですが、2008年にサンフランシスコに留学へ出掛けたときに、現地のフードカルチャーを学ぶために意を決して「おひとりさま」をしたのがきっかけとなり、以降はひとりで機敏に食べ歩くようになりました。
そんな自分の外食の仕方を、いつしか「アローングルメ」と呼ぶようになったわけですが、一昔前と比べたら「おひとりさま」にもコースを出すレストランは増えたし、同志もよく見かけるようになった気がしますね。
そういえば。『孤独のグルメ』というテレヴィ番組は観たことがほとんどないのだけれど、親近感を覚えるのは、ひとり食べながら思索の旅に出かけていくというプロセスと時間の味わい方です。
一方で、僕は空腹を満たすことが主目的じゃないなあ。
あまりアラカルトオーダーをしないなあ。
仕事の帰り道でなく、外食にはその休日1日を注ぎ込むぐらいの覚悟で出かけるなあ。
背広は冠婚葬祭以外で一切着なくて、基本その店へ着ていく洋服を選ぶ時間から外食は始まっていると考えているなあ。
ずいぶんと違う!
そんな違いのほうに目が行くので、「コウタが書いているのは『孤独のグルメ』じゃないか」というツッコミは想定しつつ、それは一切無視をする方向で、僕は本日から3本の原稿を通して「アローングルメ」を紹介していくことにします。
そもそもアローングルメとは? なぜそんなことしてるの? どうやって始められるの? アローングルメで生まれた変化は? 思いつく側面は網羅し切ることを目標にして・・・。
そもそもアローングルメとは
「アローングルメ」とは、すごく簡単に説明を片付けるならば「おひとりさま」「孤食」です。
ただ、大事なのは誰も一緒に行く人がいないのでやむを得ず・・・の孤食ではないこと。自らすすんで選ぶ「おひとりさま」なので、一人で食べることを肯定的に捉え直す活動なんです。
家族や恋人や友人を伴って食事へ行くことの楽しさは、もちろん理解しています。美味しい料理や店の雰囲気・演出を、誰かと分かち合いながら楽しむのは、いつの時代であっても美しい時間の過ごし方です。
一方でこの「誰かと分かち合わない」「料理やレストランと関係のない雑談を極力減らしたい」という内的な願いが僕にはあります。どういうことかというと、その店で提供されている料理に全神経を注ぐ瞑想的な食体験をしたいんです。
誰かを伴って行くと、その人の近況や仕事のことなど、雑談が自然と増える。その雑談が盛り上がれば盛り上がるほど、一品一品の料理に対する集中力と敬意は下がります。
そうなると、もちろん、この料理はなぜこのように仕上がったのか。この酸味は、食感は、お皿の選択は、ペアリングのワインの狙いは・・・と思索がめぐるはずの時間が、雑談で奪われます。
芸術鑑賞しに行こう、そのためにお金も財布に入れて、ドレスコードに見合った洋服を着て・・・という時間を楽しむための外食がしたかったのに、同席相手の無駄話に辟易して、ただお腹いっぱいになっただけの時間になってしまった。そういう過去の嫌な思い出を繰り返したくないという思考はあるかもしれません。
「アローングルメ」で満たしに行くのは空腹だけではない。食欲の領域外も含めた知的好奇心を刺激し、その場にいく自分自身に対する肯定感の確認をしに行くことです。
料理を思いつくアイデア力、食材のいかし方から、僕の次の企画書が劇的に変わることがよくあります。
シェフやサービススタッフの所作や話し方から、自分自身の部下や同僚や家族に対する姿勢を変えようと気づくことも。
料理に合わせるペアリングから、「選ぶ」->「提案する」というシンプルなプロセスで客のニーズを満たす編集眼を学ぶことも。
そしてそのレストランがたとえば高額でドレスコードもあるとする。そうなると僕は食事代が払えるように必死に働くし、その店に見合う洋服・靴・鞄を買おうとセンスを磨き、そのための経済力もつけます。
(ファッション〜トレンド〜デザインで自己肯定感を高めるのはまやかしだと主張する方もいますが、僕は違う。洋服や鞄を買うことは僕があらゆる観点から大事にしているモチベーション源。)
僕が外食をするときは、本来あるべきシェフ、サービススタッフ、食材に対する敬意を取り戻し、また、食事体験が自分の暮らしや仕事に大きなインプットになるようにしたい。そう考えると「アローングルメ」が実に有効なんです。
と、このように「そもそもアローングルメとは?」という説明を書き散らしてみたのですけれども。うーん、あ、なんか気難しく読めちゃうな・・・(笑)
もちろん、僕にも、レストランを雑談をしに行く場所と位置づけて楽しむことはありますよ。ただ、そういうときの食事はどんな高級店であっても、料理はなかなか主役になりにくいんですよね。目的の切り分けかなと思います。
そして「グルメ」という言葉や、僕のインスタグラムをみた印象から、ひとりで高価な食事をしにいくことと思われがちなんですけれど、それも違います。自分がじっくり味わいたい食べ物を瞑想的に食べるのであれば、吉野家の牛丼でもマクドナルドのハンバーガーでもいいんです。
(というか僕はジャンクフードが大好き、コンビニ弁当や松屋や吉野家はしょっちゅうです。ただ、そういうものを食べるときの写真、いちいちインスタに載せませんよね。笑 なので、インスタだけで僕の暮らしを切り取られると、妙な誤解は招きやすい・・・)
そして「孤独の」を使わない理由は冒頭に書いたとして、なぜ「グルメ」であって「フーディー」でないかというと、深い理由はありません。僕は洋服の「フーディー」にも強い偏愛があることと、まだ比較的新しい言葉なので「グルメ」としたほうがいいだろう。それぐらいの理由です・・・(;^_^
初めてのアローン@サンフランシスコ郊外
カリフォルニアに留学をしていたときに「アローングルメ」に目覚めたと書きました。その「アローングルメ」”発症”のころを振り返ってみましょう。
もともと僕は年間でCDやレコードを300枚ぐらい買うペースの音楽オタクでした。ただカリフォルニアで住んだ街には、大きなCDショップやレコード店がなくて、自分が満足できる「ここは通いたい!」という店には片道1時間半以上かかったし、電車の本数は少ないし、物価が高くて片道20ドルぐらい必要だったんです。
留学前は、週に最低3回はタワレコ・HMV・ユニオン・DMR・レコファンを渋谷店・新宿店ともに1日かけてくまなく巡回する日々だったので、自分の知的好奇心を満たす時間と機会の確保が難しくなってしまいました。(当時はかろうじてiTunes Storeがあったぐらい。しかも音質悪い。)
そんな知的好奇心を満たす術を探っていたとき、下宿先すぐの大通りに一軒のレストランを発見。それが「TRADER VIC'S MOUNTAIN VIEW(今は閉店)」でした。
「TRADER VIC'S」は、今では広く飲まれているカクテル「マイタイ」の元祖として知られる名店で、日本にはホテルニューオータニに出店しています。僕はそこに子どもの頃から、誕生日などの特別な日によく行ってたんですね。
そう思い、その店の前を通り過ぎては、「うーんやっぱり恥ずかしいし気まずいし、そもそも高いからやめよう」と躊躇して入らない日々が続きました(笑)
そんなとき、当時毎日「iChat」の動画通話機能で話していた祖父母(※)に相談したら
とのレスポンス。たしかに。モチベーションにもなるし、なにか達成感を得たときなら「えーい、行っちゃえ!」となりますね。
そのアイデアをそのままいただいた矢先、カレッジのテストで満点をゲット、他の科目も無事に単位が取れて、もう1学期分の在留資格がOKになりました。そうして、直近の休みの日に「TRADER VIC'S MOUNTAIN VIEW」へと食べに行ったわけです。
これで「おひとりさま外食」に対する抵抗感がかなり減った中、今度は徒歩圏内の近所にカウンター席主体のトラットリアを見つけ、僕はそこに入り浸るようになりました。
前菜、パスタ、メイン、デザートと好きなものを選びつつ、ナパのワインを飲んだり、カクテルをつくってもらう。「リモンチェッロ」を初めて飲んだのも、「カッサータ」だとか「カンノーロ」といったデザートも当時は知らなかったので衝撃があった。しかも異様に安かったんですよね。50ドル以上払った記憶はない。
毎週のように通っていると、顔を覚えてもらえます。イタリア移民のバーテンダーのお兄さんと話すようになり、彼にはたくさんのイタリア料理のイロハやワインの合わせ方を教えてもらいました。(残念ながら2015年頃には閉店してしまったようですが。)
アメリカの2店舗での食事を経て、僕は食欲を満たす以外の目的も含めて、レストランに行くようになりました。まだその頃は、いまほど「ひとり」であることがそのさまざまな欲を満たすうえで重要だとは気づいていませんでしたが、「アローングルメ」への道の出発点はここですね。
(※)ホテルニューオータニの「TRADER VIC'S」に家族で初めて足を運んだのは祖父母だったそうです。ハワイが大好きな一家なので、トロピカルな雰囲気に満ちた料理やカクテルは、ドンズバだったのでしょう。
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中編はアローングルメをどう始め、探究していったか。僕の日々の店舗選びや、楽しみ方・醍醐味について書いていきます。数日後には書き上げ、アップするのでお楽しみに!
https://note.com/2kaiproductions/n/nf67e72885108
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