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【小説レビュー】『成瀬は信じた道をいく』超ローカルな環境で描く「変わり者」へのエール?

どうも、こんにちは。kei_tenです。

本日は宮島未奈さんの小説『成瀬は信じた道をいく』を紹介します。

こちらは2024本屋大賞を受賞した『成瀬は天下を取りにいく』の続編。引き続き、連作短編集となっています。

▼前回のレビューはこちら


■あらすじ

唯一無二の主人公、再び!
「ゼゼカラ」ファンの小学生、娘の受験を見守る父、近所のクレーマー主婦、観光大使になるべく育った女子大生……。個性豊かな面々が新たに成瀬あかり史に名を刻む!

■『成瀬は信じた道をいく』で再発見できる魅力とは?

前作との違い:登場人物の多様化(クセツヨ化)

続編である今作は「登場人物の多様化(クセツヨ化)」が、前作から発展したポイントと感じています。

あらすじにも取り上げられている4人の新たな登場人物は、なぜだか成瀬と仲良くなれてしまう。それは、彼女たち自身も「癖が強い」人物だからではないでしょうか。

前作では登場人物の多くは、比較的(というと失礼かもしれませんが)どこかにいそうな人物という印象だったので、登場人物の“クセツヨ化”によって生まれるハーモニーが、今作の新たな魅力になったと言えます。

それ故、「ゼゼカラ」の相方で幼馴染の島崎さんが前作以上に“真人間”に見えてしまうのも、本作のお楽しみポイントかもしれませんね。(島崎さんは一番「読者に近い存在」かもしれませんね)

前作との共通点:収録最終話で目頭が熱くなる

一方、「収録最終話で目頭が熱くなる」ところは、前作と共通した魅力と言えます。

『成瀬は天下を取りにいく』の最終話「ときめき江州音頭」では、成瀬あかり自身が主人公として話が進行し、各話の主人公がファンサービスのように登場し、大団円を迎えます。

この話は初めて成瀬主観で展開されるため、“必ずしも堂々と振る舞っているわけではない”彼女に感情移入してしまうところが、僕としては特に胸熱ポイントでした。

今作の『成瀬は信じた道をいく』でも、最終話の「探さないでください」で、各話の主人公がファンサービスのように登場します。

そして最終話の主人公は、“島崎みゆき”。
前作との違いや今作での新たな要素にいちいちツッコミ入れてくれるので、ここでかなり島崎さんと読者である自分が重なってきます。

「探さないでください」は、“ツッコミ文学”と表現するのが相応しいくらいに、今までの10話分で読者が感じたところをしっかり回収してくれて、エモさも一入(ひとしお)。

笑えるけれど、泣けてしまう。そんな話を収録最終話に持ってくるものだから、“成瀬シリーズ”が癖になってしまうのかもしれません。

■“成瀬シリーズ”は「変わり者」へのエール?

前作では「あまり関わりたくない変わり者」として扱われていた彼女が、大学生になった今作で「弟子や友人、相方ができている」という、大きな環境変化がありました。

こういう経験に思い当たる節がある人って、少なくないと思います。

中学高校では変わり者として浮いた存在だったのが、大学生になったら急に話が通じるようになったり、友達が増えるようになった、というような変化です。

実は、僕自身も成瀬のような環境変化があった人間の1人でした。

よく「大学デビュー」という言葉がありますが、ここでは「自分自身は変わっていないのに、なぜか環境が変わった」というのがポイントです。

それは純粋に周囲が大人になったから、ということもありますが、自分と共鳴してくれる人はこの広い世界には沢山いるものなんですよね。

そういう現象を滋賀県大津の「膳所」という超ローカルな環境で描いているのが、“成瀬シリーズ”の魅力なんじゃないか?と僕は思っています。

今は友達が少ないとか、なかなか話が合う人がいない、なんて中高生がいたら、成瀬に勇気づけられるんじゃないでしょうか。

もちろん、大人になっても職場環境が変われば、同じようなことだって十分起こり得ます。

なお、“成瀬シリーズ”は著者の宮島さんが3部作で完結予定と語っているので、次回でおしまいのようです。

一抹の寂しさを感じつつも、最終作に期待したいですね!

では、また!kei_tenでした。


※キービジュアルは新潮社の『成瀬は天下を取りにいく』特設ページより引用

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