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【小説レビュー】『成瀬は天下を取りにいく』のノスタルジーを誘う、ローカルネタとギャグセンス

どうも、こんにちは。kei_tenです。

本日は宮島未奈さんの小説『成瀬は天下を取りにいく』を紹介します。

各所ですでに話題になっている本ですが、ぼくなりの視点もお伝えできればと思います。

※Podcastで音声配信もしています。


あらすじ:

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。

■本屋大賞2024年受賞!

『成瀬は天下を取りにいく』は4月10日に発表された、2024年の本屋大賞に選ばれた作品です。

本屋大賞というのは「書店員の投票によって選ばれる」特徴がある賞。

現場の評価が反映されるものなので、直木賞や芥川賞に比べてカジュアルに楽しめる作品が多く、個人的に本選びの参考にしています。

因みにぼくがこの本と出会ったのは、今年の2月頃だったと記憶しています。東京・立川のジュンク堂で平積みにされていて、上の子が中学生なので「朝読書用に」と、軽い気持ちで選んだ本でした。

今思えば、本屋大賞候補としてピックアップされていたんですね。

■ひとつの舞台が複数の視点で描かれる、短編集型の青春小説

『成瀬は天下を取りにいく』は、滋賀県大津市に住む、少し風変わりな女の子「成瀬」と彼女を取り巻く人々の物語。

6つの話で構成される短編集で、各話それぞれ違う人の視点から語られていますが、ひとつの大きな物語と見ることもできる構成という特徴があります。

個人的には、橋本治さんの『桃尻娘』シリーズのようになっていく可能性を感じました。

『桃尻娘』は12年かけて6冊のシリーズが刊行された作品ですが、1冊ごとに主人公が違うのが特徴の青春小説です。
それぞれの主人公は初期から登場しているヒロインの友人なので、ひとつの大きな物語が続いていくのを楽しめました。

この「成瀬」も、2作目の『成瀬は信じた道をいく』が刊行されているので、今後の展開に期待したいですね!

■ノスタルジーを誘う、ローカルネタとギャグセンス

『成瀬は天下を取りにいく』の魅力を端的に伝えるならば、ローカルネタとギャグセンスでしょう。

2つの魅力というよりも、この2つがバランスよく組み合わさっている印象です。

あなたの地元にも「成瀬」がいるかもしれない:

地方出身者なら、ローカル番組や地元のショッピングモールなどを「あるあるネタ」として、面白おかしく思い出と共に語ること、あると思います。

それを小説という形に落とし込んだのが、『成瀬は天下を取りにいく』ではないでしょうか?

「成瀬」はどこにでもいるような女の子ではありません。

ただ、成瀬が取っている行動は、地方のローカル番組などで何だか見たことがある光景だったりするんです。

自分の地元にも「成瀬」がいるかもしれない。そう感じさせる魅力があるんですね。

中学生が考えそうなギャグ、そこから生まれるグルーヴ感:

M-1出場を目指す話では漫才ネタが実際に描かれていますが、中学生が考えそうな妙なリアリティがあります。

また、お笑いにうるさいタイプの人が考えそうなことを、相方の「島崎」が考えていることもまた笑えてしまう。

読者に“自分ごと意識”を植え付ける「グルーヴ感」を、読んでいて感じれることも、独特なギャグセンスと言えそうです。

ぼくの年齢によるものかもしれませんが、読んで笑いながらも何だかノスタルジーに浸ることができる、そんな魅力も感じています。

■遅咲きデビューは「今の時代」がもたらしたチャンス?

作者の宮島未奈さんは、1983年生まれのアラフォー世代。
前回のnoteで取り上げた氷河期世代の最後の最後と言える年代です。

『成瀬は天下を取りにいく』は、実は彼女のデビュー作。

20代半ばで小説家への夢を挫折し、その後はライター・ブロガーとして活動されていたようです。

30代後半で掴み取ったデビューからスターダムにのし上がる様は、何だか「今の時代」を反映しているようにも感じました。

近年、アニメで「異世界ネタ」が流行っていますが、『小説家になろう』というサイトに投稿され、出てきた作品(なろう系)ばかり。
逆に言うと、それだけ面白い作品を書ける才能が沢山眠っていることも意味します。

『小説家になろう』サイトURL:https://syosetu.com/

宮島さんは「なろう系」ではなく、地道に新人文学賞に応募していたようですが、「若い頃に夢を諦めた人が再起を目指す環境がある、さらにそこで成功を掴んだ人が沢山いる」ということが珍しくなくなりました。

「人生100年時代だから〜」というセリフもよく耳にしますが、彼女のように埋もれていた才能が突然花開くこと、これからも目にする機会が増えるでしょうね!

個人で創作活動をされている方・されたいた方は、まずはこのGWだけでも何かチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
3日坊主でも、恥ずかしくありませんよ!

ではまた、kei_tenでした!

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